国際通貨基金(IMF)の「多国間貿易統計」(DOT)でロシア経済を分析すると、最大の貿易黒字を計上している国はインドである。だが、中国に比べて工業化が遅れているインド相手から輸入するものはそれほどなく、原油の輸出で稼いだインドルピーはダブついている。貿易相手の新興国シフトを進めているロシアだが、実態として、ハードカレンシーの確保という課題に直面している。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻して以降、ロシア連邦関税局は通関統計をオンラインで公表することを取り止めている。合計額のみならず、財別・相手国別に公表されていた内訳を知ることもできなくなったため、米欧による経済・金融制裁がロシアの貿易にどのような影響を与えたか、具体的な分析が困難となった。
一方で、ロシア中銀が国際収支統計を公表し続けていたため、貿易の大まかなトレンドは確認することはできた。また、旧来の紙媒体では貿易統計の詳細の公表が続いていたようで、日本でも北海道大学などで「年報」を閲覧できるようだ。
この「年報」は、この間のロシアの貿易の変化を分析するには大変に有用な資料だが、動向分析をするには足が遅い。それに対して、、国際通貨基金(IMF)の「多国間貿易統計」(DOT)は、即時性に優れているという利点を持っている。
ただ、侵攻からしばらくの間はIMFのDOTでもロシアの国別の貿易データは掲載されていなかった。そのため筆者は、相手国側の貿易統計からロシアの貿易の相手国別の動向を分析していた。それがいつ頃からか、恐らく2024年に入ってからだが、ロシアがIMFへの報告を再開したのだろう、DOTに貿易データが掲載されるようになった。
そこで、このDOTの2024年の貿易動向を振り返ることで、ロシア経済の対外経済面での実像に接近してみたい。
なお、ロシアの事実上の前身国家であるソ連には、統計を改ざんするのではなく、都合が悪い統計は公表しないという傾向があった。印象論だが、今のロシアもこの伝統を踏襲しているように見受けられる。
言い換えると、国別の貿易データは、侵攻直後のロシアにとっては都合の悪い統計だったが、今は都合の悪い統計ではなくなったということなのだろう。
実際に、その動きを分析すると、ロシアの対外経済関係の新興国シフトが2024年にかけて着実に進んだことが窺い知れる。同時に、新興国シフトが持つ問題点もまた浮き彫りになる。