(黒木 亮:作家)
「男だろ!」
箱根駅伝で選手の足音以上に面白いのが、伴走車(運営管理車)の声かけである。
最近では、駒沢大学の大八木弘明現総監督の「男だろ!」が有名だが、各監督とも、選手を1秒でも速く走らせるため、工夫をこらしている。一方で、何十年も変わらない定番のセリフもあり、息の長さに驚いたりする。
昔も今も変わらない声かけのセリフは、「お前のお父さん、お母さんも見てるよ」である。てっきりこういうのは昭和の時代だけかと思っていたら、今でも言っている監督がいるので、「へえー、今でも言うんだなあ!」と感心する。
山梨学院大学の上田誠仁前監督が、ケニア出身の選手たちに「お前のお父さん、お母さんも……」と日本語で言っているのを聞いたときは、「えっ、ケニアの選手にあんなこと言って、意味が通じるの?」と驚いた。
ところが後で上田氏のインタビュー記事などを読むと、初代留学生のジョセフ・オツオリ選手などは、日本人以上に日本的で、日本人学生の模範にもなっていたそうで、なるほどと納得した(オツオリ選手は37歳のとき、一時帰国中のケニアで交通事故死した。山梨学院の川田「未来の森」運動公園陸上競技場には、彼を偲ぶモニュメントがある)。