監督の声掛けに「うるさい、くそジジイ!」
筆者も箱根駅伝を走ったときは、中村清監督に同じように定番のセリフを言われた。4年生で8区を走ったときのことだが、タスキを受けて間もなく、「大東(文化大学)が1分ちょっと前にいるけど、お前なら抜ける。今のお前の力なら、どこの大学の奴にも負けない。俺はお前に期待してるんだよ」と言われ、〈最後の最後になって、監督は自分のことを認めてくれたんだろうか?〉と、雨交じりの向かい風の中を走りながら全身がジーンとなった。
その後「北海道のお前の両親も見てるよ」「お前の中学や高校の同級生や先生方も見てるよ。立派な走りをして、最後を飾らんと」と続いた。このあたりも毎年言われるので、想定の範囲内だ。
しかしそれに続いて、「お前が就職する○×銀行の人たちも見てるよ」と言われた時は、走りながらガクッときた。自分は就職のために走っていたわけではないし、陸上競技に関して銀行に世話になったこともない。〈この爺さん、俺を誤解してるんじゃないのか?〉と、もやもやしながら走り続けた。
筆者の2年上の斉藤さんという先輩は、中村監督にもっとも反抗した選手の一人で、箱根駅伝での声かけに対し、「うるさい、くそジジイ!」と怒鳴り返したそうである。中村監督も腹を立て、「(教員志望だった斉藤氏の故郷の)長崎県の教育委員会に電話して、斉藤を教員に採用するなと言ってやる」と息巻いていた(斉藤氏は卒業後無事教員になり、意外なことに中村監督の教えを生徒たちに熱心に伝えていたという)。