順天堂大の「鬼の澤木」「仏の小出」

 対照的な声かけで面白かったのが、順天堂大学出身の2人の指導者、澤木啓祐氏と小出義雄氏だ。

1999年1月3日、逆転で総合優勝を飾り選手に胴上げされる順天堂大の澤木啓祐監督(写真:共同通信社)
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 高橋尚子(シドニー五輪マラソン金メダル)と有森裕子(バルセロナ五輪マラソン銀メダル、アトランタ五輪マラソン銅メダル)を育てた小出氏は、箱根駅伝総合優勝9回の澤木氏に勝るとも劣らない実績を持つ。

 実家が千葉県の農家で、父親が大学進学を許してくれなかったため、家出をして工事現場の作業員で食いつないだりしながら走り続け、22歳で順天堂大学に入学。箱根駅伝には3回出場し、1年生のときは山登りの5区で区間10位、2年生のときは8区で区間3位、3年生のときも8区で区間5位という成績を収め(4年生のときは怪我で走れず)、1学年下でエース区間の2区を毎年走った澤木氏とは、第39回大会と第40回大会でタスキをつないだ。ランナーとしては常に日の当たる道を歩き続けた澤木氏とは対照的に、地味で泥臭い選手生活を送った。

 しかし、大学を卒業し、千葉県立長生高校の教員になると、翌年には、同校の関谷守選手を全国インターハイの5000mで優勝させるという、神がかり的な手腕を見せた。その後、千葉県有数の進学校である県立佐倉高校を全国高校駅伝に導き、市立船橋高校では、指導者になってわずか2年と数カ月という短期間で全国高校駅伝制覇の快挙を成し遂げた。髭面で、酒とタバコと陸上競技を愛し、「鬼の澤木」「理の澤木」に対し、「仏の小出」「情の小出」と言われた。

2時間6分30秒の高校最高記録で初優勝を果たし、選手に胴上げされる市立船橋の小出義雄監督=1986年12月、京都・西京極陸上競技場(写真:共同通信社)
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