政情不安が続くドイツ。写真はショルツ首相(写真:ロイター=共同)政情不安が続くドイツ。写真はショルツ首相(写真:ロイター=共同)

 ショルツ首相の信任投票が否決されるなど混乱が続いているドイツ。政情不安にとどまらず、景気低迷と産業空洞化の三重苦に直面している。労働時間が短く所得水準も高い。環境対策も進んでおり、経済以外の側面でも豊かな国──。日本人も憧れたドイツはどこで間違ってしまったのだろうか。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 2025年のドイツ経済を展望するにあたっては、政情不安と景気低迷、そして産業空洞化という3つのキーワードが重要となる。

 うち政情不安に関しては、中道右派のキリスト教民主同盟・同社会同盟からなる同盟(Union)を首班とし、それに中道左派の社会民主党(SPD)が参加する大連立政権が成立することで春にも収束するだろう。

 オラフ・ショルツ首相は退陣し、代わってUnionからキリスト教民主同盟のフリードリヒ・メルツ党首が新首相に選任される公算が大きい。

 ドイツでは右派の民族主義政党である「ドイツのための選択肢」(AfD)が旧東ドイツを中心に有権者の支持を集めているが、その思想的な問題を理由に、有力政党のいずれもがAfDとの連立を拒んでいる。

 Unionが安定して政権を運営するためには、SPDと組み、連邦議会で議席の過半数を得るしか術はない。一方のSPDも、政治に影響力を行使するためにはUnionと組むしか方法がない。UnionとSPDに残された選択肢は大連立以外にないのである。

 責任政党としての経験が豊かな両党であれば、短期的には政情不安の収束が見込まれる。

 大連立政権は「決められない政治」に陥る傾向が強いが、UnionもSPDも背に腹は代えられない。政権成立後、ただちに2025年予算が下院で可決され、ドイツの財政運営は正常軌道に復するだろう。

 言い換えれば、最短でもドイツの財政運営は晩春か初夏にならない限りは正常化しない。それまで、景気には財政面から下押し圧力がかかる。

 大連立政権の最大の課題は、保守化するドイツの有権者の民意をどう取り入れていくかにある。

 右派のAfDのみならず、左派政党からスピンオフしたザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)のように、左派からも民族主義政党が誕生し、一定の支持を得ている。そうした民意に配慮しないと、大連立は支持を失い、政情がさらに不安定化する。

 次に景気低迷だ。