そして、ディストピアと化すドイツ
政情不安と景気低迷、そして産業空洞化という三重苦に、今のドイツ経済は直面している。うち、短期間で収束が見込まれるのは政情不安だけだ。その政情不安も、抜本的な解決には遠く、長期にわたって燻り続けることになる。
景気低迷と産業空洞化は構造的な性格が強く、2025年以降もドイツを苦しめることになると考えられる。
長らく日本では、ドイツの社会経済の在り方を理想的に紹介する向きが強かった。ドイツはユートピアだというわけである。労働時間も短く所得水準も高い。環境対策も進んでおり、経済以外の側面でも豊かな国、それがドイツ、という具合だ。2023年に日本を抜き世界三番目の経済大国になったことも、肯定的に紹介されてきた。
ミクロ的、局所的には、まだ肯定的に学ぶところはあるだろう。だが、ドイツのマクロ的な経済の実態は厳しく、ユートピアというよりも、真逆のディストピアといえるような有様だ。
日本はドイツを崇めてそれを真似るのではなく、むしろドイツの二の舞を演じないよう、ドイツはどこでどう間違ったのか、その失敗を学ぶ必要があるだろう。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。