三菱UFJ銀行の支店勤務の女性行員が、支店の貸金庫から顧客の金品十数億円を盗み取っていた事実が発覚した。金融機関の信用を根底から揺るがすような事件であるが、詳細はまだ不明のままだ。いま同行内部では何が起こっているのか。かつて都市銀行に勤務した経験を持つ作家の黒木亮氏による解説記事の後編をお届けする。(JBpress編集部)
(*前編はこちら)
(黒木 亮:作家)
被害顧客の申告をどこまで信用するか
本件は、銀行の信用を揺るがす未曽有の事件だが、構図自体は、一女性管理職の顧客資産の窃取という単純なものだ。複数の人間が関与しているとか、海外に高飛びしたとか、あるいは銀行のコンピュータ・システムに重大な欠陥があったとかいう話ではない。
したがって原因究明や事態解決のために大人数を投入する必要はなく、人目につかない場所で、人事部や法務部門の担当者を中心に、可能な限り少人数で事情聴取が実施され、行内には厳重な緘口令が敷かれ、同じ人事部や法務部門でもラインが違えば、情報がまったく入ってこないようになっている。聴取の内容は、犯行の手口、詐取した金品の詳細、本人の資産状況(どの程度損害を回収できるか)等である。
厄介なのは、少なくとも60人以上はいる被害顧客の申告をどこまで信用し、どのように査定し、損害賠償額を納得してもらうかだ。便乗(虚偽)申告組も出てくるだろうから、嘘を見抜くのに長けた警察OBの行員や外部のヤメ検弁護士に顧客と話し合いをさせ、申告の真実性を査定していくはずだ。今一番時間がかかっているのはこの作業である。顧客の申告の真実性の査定のためには、元営業課長の供述が重要で、そのためにも彼女の身柄を警察に引き渡さず、銀行の管理下に置いているのだ。
その上で、万一顧客と裁判になった場合に勝てる確率や、顧客の属性などを総合的に判断し、一定の基準を設け、ある程度顧客の申告を丸呑みしていくと筆者は見ている。便乗申告が出たとしても、三菱UFJフィナンシャルグループの約1兆7500億円という純利益(今期見込み)に比べればはした金だ。同行は良きにつけ悪しきにつけ、邦銀では最も体面を重んじる銀行で、金で解決できるなら、そうする傾向がある。
なお今回のような金融庁マターの不祥事は、ヤメ検の外部弁護士に調査のやり方の立案、顧客等との面談、金融庁への提出書類のチェックを依頼するのが基本である。