貧乏人は切り捨てられる
今回の事件の第一報を聞いたとき、筆者が考えたのは、三菱UFJ銀行は貸金庫業務から撤退する方向に行くのだろうなということだ。貸金庫業務はスペースばかりとって儲からないので、銀行はどこもやめたいのが本音だ。
貸金庫に限らず、邦銀は儲からないリテール業務をどんどん縮小し、切り捨てている。三菱UFJ銀行の定期預金の金利を見ても、期間5年以下は0.125~0.25%、期間10年の長期でも0.4%、外貨定期はどの通貨(米ドル、ポンド、ユーロ、豪ドル等)も0.001~0.01%というミクロの世界である(米ドルだけは、キャンペーンをやったりして、一時的に1年物に4.2%の金利を付けたりしているが)。英国ではポンドの定期預金は期間1~2年で4%程度の金利がつく。要は、個人の顧客は、富裕層以外は、来てほしくないということだ。
貸金庫、定期預金以外でも、ほとんどのメガバンクは、いつのまにか海外で発行された小切手の取り立てもやめてしまった。筆者の友人はどうしたらいいのか途方に暮れ、必死で探し回った末に、SMBC信託銀行だけは取り立てをやってるというので、預金口座を開設するという条件で取り立ててもらったという。
銀行のリテール切り捨て(ないしは縮小)は、日本だけに限らない。筆者が住む英国はもっと激しい。筆者は以前、英国四大銀行の一つであるHSBCの貸金庫を利用していたが、20年くらい前に、貸金庫を取り扱う店舗数を減らすので、今預けてある物を別の支店の貸金庫に移してくれと言われ、その5年後くらいには、貸金庫業務から全面撤退するので、預けてある物は全部持って行ってくれと言われた(仕方がないので、家の権利証などは、銀行以外の別の場所で保管している)。
さらに新型コロナ禍を契機として、HSBCは怒涛の勢いで業務のオンライン化を推し進め、2021年には国内593支店のうち81支店を閉鎖し、残した支店でも、その多くでいきなり入出金の窓口や顧客対応ブースを廃止した。取引をしたければ、オンラインしかありませんという強制的なやり方だ。筆者の家の近くの支店も、オンライン・バンキングの使い方を教えたり、オンライン口座を開いたりするだけの「デジタル・サービス・ブランチ」という聞いたこともない形態に変わった(たぶんいずれ閉鎖になるだろう)。
別の大手のサンタンデール(UK)銀行もそれを真似して、窓口を閉鎖した。家の近所の支店に行って、「定期預金のロールオーバー(継続)をしたいんだけど」と案内係に相談したら、「対面で手続きをしたいのなら、担当者は2カ月後に来ます」と言うので、唖然となって、まだ窓口業務や相談業務をやっている別の銀行に預金を預け替えた。
大手銀行の一角であるバークレイズ銀行は、海外在住者との取引はコンプライアンス経費などが大変なので、「もう英国内にいる人としか取引しません」と宣言し、海外在住者に口座を閉鎖すると一斉に通知した。