絵画と宗教は切っても切れない関係がある。どのような教えを中世宗教画が伝えてきたのか読み取ると、ユダヤと中東問題、イスラム教とユダヤ教の関係、その両方に深くかかわるキリスト教など、今につながるものが浮き彫りになる。レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』やミレーの『落穂拾い』など、有名絵画に隠された秘密とは。
※石角完爾『西洋絵画に隠されたユダヤの秘密』(笠間書院)から抜粋、一部編集した。
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(石角 完爾:国際弁護士)
超高層建築物に神が抱いた危機感
ピーテル・ブリューゲル(父)(Pieter Brueghel the Elder)の『バベルの塔(The Tower of Babel)』の絵は、1563年頃に描かれたものである。この世界に知られた絵は、オーストリア・ウィーンにある美術史美術館(Kunsthistorisches Museum)に収蔵されている。
美術館を訪れてこの絵をご覧になった方も多いに違いない。その時、美術館のガイドブックやガイドの説明からどんなことを聞かれたであろうか。
「これが旧約聖書(ヘブライ聖書)で言う有名なバベルの塔の絵です。古代バビロニア帝国(Babylonia)の人々が造った古代の超高層建築物です。その高さはパリのエッフェル塔よりもはるかに高く、雲を突き抜けるほどだったと言われていますから、1000m、2000mの高さであったかもしれません」と聞かされたのではなかろうか。
あるいは、「古代バビロニア王国の建築技術の高さを表しています」と説明されたかもしれない。
このバベルの塔は、古代メソポタミアに栄えたバビロニア帝国の中心都市にあったとされている。古代バビロニア帝国は、紀元前18世紀から約1000年栄えた古代文明の中心地であり、現在のイラクのユーフラテス川沿いの都市であったという。