迫害や虐殺を受けた長い歴史の中で、その悲劇すらも乗り越え、蓄財とイノベーションのチャンスへと転換し、富を獲得してきたユダヤ人。日本のビジネスパーソンでも、ユダヤ人の成功哲学に興味を抱く人が多い。
ユダヤ人の蓄財術とその背景について、ヘブライ聖書と、その解釈を集めた議論集である「タルムード」「ミシュナ」と呼ばれる口伝律法を深掘りする連載の第4話。
◎第1話「ユダヤ人が重視する蓄財術の本質が詰まっている『ノアの方舟』の物語」
◎第2話「神がエイブラハムに突きつけた究極の選択、ユダヤ人はどのように読み解くか?」
◎第3話「ユダヤ人が蓄財対象として重視する金とダイヤモンド、そして価値を見極める目」
※石角完爾著『必ずお金が貯まるユダヤ蓄財術「タルムード」金言集』(小学館)から抜粋、一部編集した。
【バベルの塔の物語】
ノアの大洪水の後、人間はみな同じ言葉、同じ言語を使って話をしていた。人々は東に移動しながら暮らし、やがてシナルという土地にたどり着いた。
そこで人々は、神が作った石の代わりにレンガを作り、漆喰の代わりにアスファルトを作る技術を身に付けていった。しかし、こうした技術の進歩は、次第に人間を傲慢にしていく。天まで届く塔を建てて町を作り、有名になろうとした。
「我々は、もう神に近づいた」「これでもう、神を恐れる必要はない」「この高い塔こそが我々の神だ」とばかりに、どんどんどんどん、塔の高さを上げていった。
その様子をご覧になった神は、人間の傲慢な企てに怒った。これを放置しておけば、人間はますます傲慢になり、神をも恐れぬ存在になり、高い塔を崇めるようなことになるだろう。
偶像崇拝を厳しく禁じるユダヤの神は、「これは神に対する冒涜(ぼうとく)行為である」と、バベルの塔を一瞬にして崩壊させてしまった。
さらに神は、「このような状況になったのは、人々がみな、同じ言葉を使っているせいである」と考えた。そしてバベルの塔を破壊した後、神は人間の言葉をバラバラに分断してしまった。
世界中に多様な言葉が存在するのは、バベルの塔を建てようとした人間の傲慢を、神が裁いた結果である。なぜなら神は、このように考えたからだ。
「人間においては、部族と部族、民族と民族、国と国、地域と地域、それぞれ全く別の言葉にしてしまおう。そうすればお互いに言葉が通じなくなり、バベルの塔のような、傲慢な振る舞いに及ぶことはなくなるだろう。言葉をバラバラにすれば、お互いに何をしゃべっているのか、何を書いているのか、文字も全くわからなくなる。そして傲慢さを失い、神に対して謙虚になるだろう」
この物語には、財産形成と蓄財術の秘密が語られているとユダヤ人は読み解いた。その解釈とは、「世界の共通言語を作れば、ユダヤ人はどの時代、どの世界、どの地域においても、バベルの塔ならぬ巨大な財産を形成することができる」というものだ。