昨年の暮れ、ホンダと日産自動車が経営統合に向けた協議に入った。2025年は自動車業界の再編に向けた動きが急展開する可能性がある。焦点となるのが、トヨタ自動車だ。ジャーナリストの井上久男氏は、トヨタがスズキへの出資比率を引き上げ持ち分法適用会社化する可能性を指摘する。トヨタは持ち株会社化への移行やグループ企業の再編などを検討していると見られる。自己資本利益率(ROE)を現在の約2倍となる20%に引き上げることを目指すとの報道もある。井上氏が2025年の自動車業界の動きを大胆に予想する。
(井上 久男:ジャーナリスト)
カリスマ経営者の一人、スズキの鈴木修相談役が2024年12月25日、死去した。94歳。修氏は創業家に婿養子として入り、インド市場を開拓するなどしてスズキを成長させた日本企業を代表する名経営者だ。
筆者は、修氏の死が、国内の自動車業界再編を加速させると見ている。
ずばり言うが、近い将来、トヨタ自動車はスズキへの出資比率を現在の約5%から高めて、20%を超える持ち分法適用会社にするのではないか。21年に修氏は会長から相談役に退いたが、トヨタはその頃からすでにその布石を打ち始めている。
まず、20年10月にスズキがトヨタから役員を受け入れたことだ。常務役員・社長補佐に、トヨタ出身の石井直己氏が就任した。石井氏は現在、副社長兼社長補佐として本社の管理部門全般やインド事業を担当しており、修氏の長男である俊宏社長(65)の右腕的な存在になっている。
石井氏は16年まで、インドの子会社であるトヨタ・キルロスカ・モーター社長を務めた後、本社のコーポレート戦略部長などを歴任後、日野自動車に移っていた。「修さんから俊宏社長を支える経営人材が欲しいと言われ、石井氏がスズキ側から指名される形で送り出した」(トヨタ幹部)という。コーポレート戦略部長時代に、スズキとの業務・資本提携交渉に関わり、スズキ側の信頼を得ていたと見られる。
続いて23年春、俊宏氏の長男がトヨタの子会社、ウーブン・バイ・トヨタから戻ってスズキ湖西工場に配属されたことだ。長男は慶応大学卒業後、三菱UFJ銀行に入行。その後、ウーブンに転職していた。ウーブンには、トヨタ会長の豊田章男氏の長男、大輔氏が経営幹部として勤務しており、「将来を見据えて創業家の御曹司同士を近づけるための人事だった」(スズキ系サプライヤー幹部)と見る向きもある。
実務面でもトヨタとスズキは急接近している。