労働コストとエネルギーコストのダブルパンチ

 これまでもドイツ企業は、主要な輸出先である米国や中国などの動向を見定めながら、生産拠点の国外転出を戦略的に進めてきた。統計を確認すると、ドイツの対外直接投資は2023年7-9月期に名目GDP(国内総生産)の1.3%程度まで縮小したが、直近24年7-9月期には3.1%まで回復している(図表2)。

【図表2 ドイツの対外直接投資の国・地域別内訳】

ドイツの対外直接投資の国・地域別内訳ドイツの対外直接投資の国・地域別内訳

 今後もドイツ企業は、コロナショックとロシアショックを経て進んだ国内の高コスト体質を踏まえて、生産拠点の国外転出を加速させる公算が大きい。

 例えば、フォルクスワーゲンは、国内の本社工場で製造する主力モデル「ゴルフ」の生産をメキシコに移管する計画だと報じられている。同様の動きは自動車以外の産業にも広がる見込みだ。

 国内の高コスト体質は、労働コストとエネルギーコストに大別される。

 すでに述べたように、ドイツは余剰雇用を抱えているが、その削減は容易に進まない。労働者の権利が手厚く保護されており、労働市場が硬直的であるためだ。それでも賃金の削減が進めば話は別となるが、それも進まないばかりか、労働界はさらなる昇給を要求する。

 エネルギーコストに関しては、従来の脱炭素と脱原発を両輪とするエネルギー政策に加えて、脱ロシアを推し進めたことが仇となった。ドイツの脱炭素と脱原発は、大規模なパイプラインであるノルドストリームを通じて供給されるロシア産の天然ガスの利用を前提としていたためである。

 その前提が崩れたのに、ドイツは脱炭素と脱原発を進めた。その結果、ドイツのエネルギーコストは、コロナショック前に比べても高止まりを余儀なくされている。構造的に、ドイツのエネルギーコストは上昇したわけだ。

 労働コストにせよエネルギーコストにせよ、下がることが期待できない以上、ドイツ企業はコストが低い場所への移転を検討せざるを得ず、産業空洞化も不可逆なものとなる。