フォルクスワーゲンが国内工場のリストラを計画しているように、ドイツ製造業の景況感は悪化している(写真:ロイター/アフロ)フォルクスワーゲンが国内工場のリストラを計画しているように、ドイツ製造業の景況感は悪化している(写真:ロイター/アフロ)

 2期連続のマイナス成長に沈むなど景気が低迷しているドイツでは、企業が賃上げに耐えられるような環境にないが、最低賃金の引き上げが議論を求める声が与党や労働界を中心に挙がっている。日本でも最低賃金の引き上げが衆院選の争点になっているが、ドイツの状況を反面教師にすべきだ。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 10月27日に衆議院選挙を控えている日本だが、一つの争点に、最低賃金の引き上げがある。与野党とも最低賃金の引き上げを主張しており、石破茂首相もまた「2020年代に最低賃金を全国平均で1500円に引き上げる」という公約を掲げている。この公約に関しては賛否の両論が渦巻いており、経済界でも反応が分かれているようだ。

 最低賃金の引き上げは、経済学的にも評価が分かれる政策の一つだろう。最低賃金を引き上げることで低所得者層の所得が増えることが期待される一方で、賃金の支払い負担に耐えることができない企業が雇用を整理するため、雇用が悪化する懸念もある。

 いずれにせよ、企業が稼ぎ出した付加価値以上の賃上げは、企業経営の圧迫要因となる。

 ここで、ドイツの興味深い事例を紹介したい。

 連邦労働局の研究機関である労働市場・職業研究所(IAB)が国内1322社を対象に実施した調査によると、現在時給12.41ユーロである最低賃金が14ユーロに引き上げられた場合、1年以内に雇用を整理すると回答した企業が19%に上ったという。つまり、2割の企業は解雇を進めるとしたわけだ。

 ドイツの最低賃金は2025年に12.81ユーロに引き上げられることが決まっている。来年9月28日に総選挙を控えるドイツでは、与党の社会民主党(SPD)と連立を組む同盟90/緑の党(B90/Grünen)が劣勢を覆そうと、最低賃金を14ユーロ以上にすると息巻いている。その両党に、この調査結果は強烈な冷や水を浴びせることになった。

 連立の第二パートナーである自由民主党(FDP)は経済界寄りの立場をとるため、最低賃金はあくまで労使と学会のメンバーで構成される最低賃金委員会の決定に委ねるべきとしている。

 支持率調査に鑑みれば、ショルツ現政権の敗北は必至なため、14ユーロ超という最低賃金は実現しないだろうが、ドイツ企業はもう賃上げに耐えられないようだ。

 実際、ドイツ経済を取り巻く環境は厳しく、企業は賃上げを進める状況にはない。