シリア・アサド政権の崩壊を受け、欧州でシリア難民申請を一時停止する国が相次ぎ人道上の懸念が高まっている。特にドイツではシリア難民を帰還させる案が飛び出し、独裁者の圧政から逃れてきた人々を震撼させている。ショルツ首相の信任案が否決されて来年2月に解散総選挙が実施されることになり、票集めのために移民排斥論が高まる可能性もある。かつて大量のシリア難民を受け入れて「欧州の良心」とも呼ばれたドイツはどこへ行く。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
シリアのアサド政権崩壊から10日あまり。バシャール・アル・アサド前大統領の父親の代から半世紀以上続いた独裁は、一家のロシア亡命で幕を閉じた。2011年のアラブの春以降、自国民を苛烈な圧政下に置いた独裁者の追放に、国内はもとより国外に難民として逃れたシリア人は、歓喜の声を上げた。
しかしその声は、即座に不安の声に置き換えられた。膨大な数の難民を受け入れてきた欧州各国が、シリアからの難民申請の審査を一時停止したからだ。
アサド前大統領は、民主化運動弾圧のため自国民に対する虐待や拷問など、情け容赦のない恐怖政治を行なった。女性や子供を含む市民に化学兵器まで使用したとされ、国連の統計によるとおよそ490万人が隣国に避難し、その他130万人ほどが欧州などに逃れた。
ロイター通信の11日までのまとめによれば、難民申請に何らかの停止措置を講じたのは英、独、仏、伊などの大国を含め、17カ国に上る。
さらにアサド政権崩壊の翌日、早々にシリアの人々を「秩序ある帰還および国外追放に」というオーストリア内相の発言が注目を集めた。この5年以内に同国に定住を認められた4万人ほどのシリア人について、再評価を始めたとしている。犯罪歴や働く意思などに加え、欧州、もしくは「オーストリアの文化的価値観に適応」できるかが焦点となる。
欧州に暮らすシリア移民をさらに震撼させたのは、欧州でこれまで最も多くの難民受け入れを行ってきたドイツで、アサド政権崩壊後、即座にあがった移民帰還の具体案だ。