ドイツの脱EU、脱NATOも主張
興味深いのは、ワイデル氏の政治信条と自身の行動が矛盾のオンパレードだという点だ。AfDは右派政党らしく、伝統的な価値観を主眼においている。AfDの定義する伝統的な家庭とは、すなわち男女の婚姻により形成されるものだ。
しかし反移民を唱えるAfDの共同当主であるワイデル氏自身は、スリランカ出身の移民(スイス在住)、しかも女性とパートナー関係にあり、この女性と共に2人の息子を育てている。ワイデル氏のイスラム敵視は、同性愛者の権利を認めないことにあると地元紙に報じられたこともある。
ちなみに、米国において不法移民排斥を声高に唱えるイーロン・マスク氏も、実は自身が南アフリカ共和国からの不法移民であった可能性が指摘されている。昨今、極右支持者の間では「自分のことは棚に上げ症候群」とでもいえそうな流行病が蔓延している模様だ。
ワイデル氏はまた、11月初めに祖父がナチスの軍事裁判官であったことが地元紙に暴露されている。取材に対しワイデル氏は広報担当者を通じ、家庭の不和により、祖父のナチスとのつながりについては知らなかったとしている。祖父が亡くなったのは1985年のことであり、当時ワイデル氏は6歳だった計算になる。
およそ主義一貫しているとは言えないような人物が共同党首を務め、国内情報機関の監視下にあるにもかかわらず、AfDの人気は衰えを見せない。16日にはワイデル氏と共に共同党首であるティノ・クルパラ氏が「ロシアを含む」欧州の利益を守るため、ドイツが北大西洋条約機構(NATO)から脱退すべきだと発言した。
AfDはドイツ版欧州連合(EU)離脱の「デグジット」や脱ユーロも掲げる。移民の大量追放を意味する「リマイグレーション」を提唱する、元ネオナチとの関係も取り沙汰されている。
ドイツがEUやNATOから離脱した場合に起きうる混乱は、EUから離脱した英国の例や、ロシアによる侵攻で破壊されるウクライナを見れば火を見るより明らかだろう。加えて、シリア難民や移民を大量排除すれば、労働力は確実に減少する。
困るのはドイツ国民自身であろうが、AfDが唱える反移民・難民のスローガンは、一定の人たちに着実に響いているようだ。