メルケル時代はもはや“過去の遺物”か

 2015年、大量のシリア難民受け入れに扉を開いたメルケル前首相による回顧録が最近出版された。最初の1週間で20万部が売れ、ベルリンの書店にはサインを求める人たちの行列ができた。

 英ガーディアン紙は、前首相が本を朗読するイベントを視聴していた人がメルケル氏の声を聞き、「すべてのことがほぼ大丈夫だった時代に引き戻されたような気分だ」というコメントを掲載している。

 ユーロ危機の時ですら欧州で「一人勝ち」と称され、理念や理想を追求する余裕のあった頃のドイツを懐かしむような声だ。だが、その時代はもはや過去の遺物と化してしまった。

 ドイツの総選挙は、ロシアによるウクライナ侵攻から3年目を迎える前日の来年2月23日に投票が実施される。かつての「欧州の良心」は、どこへ向かうのか。

楠 佳那子(くすのき・かなこ)
フリー・テレビディレクター。東京出身、旧西ベルリン育ち。いまだに東西国境検問所「チェックポイント・チャーリー」での車両検査の記憶が残る。国際基督教大学在学中より米CNN東京支局でのインターンを経て、テレビ制作の現場に携わる。国際映像通信社・英WTN、米ABCニュース東京支局員、英国放送協会・BBC東京支局プロデューサーなどを経て、英シェフィールド大学・大学院新聞ジャーナリズム学科修了後の2006年からテレビ東京・ロンドン支局ディレクター兼レポーターとして、主に「ワールドビジネスサテライト」の企画を欧州地域などで担当。2013年からフリーに。