ドイツ前保健相の衝撃発言

 メルケル前首相政権下で保健相を務めたドイツ・キリスト教民主同盟(CDU)議員は9日、メディアの取材に対し「政府がシリアへの帰国希望者にチャーター機と1000ユーロを提供したらどうだろうか」と、あたかも「どうぞすぐにお帰りください」と言わんばかりの発言をしている。

 10年近く前、100万人にも上る難民を受け入れ「欧州の良心」を体現したとも言われたメルケル政権下のドイツからは、かけ離れた言動だ。

2016年、シリア難民支援で約1兆円の拠出で合意した国際会合で演説するドイツのメルケル首相(当時)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 シリアで暫定政権を主導するシャーム解放機構(HTS)は、これまで米英や国連などからテロ組織に指定されてきた。穏健化をアピールしているものの、厳格なイスラム法に従い統治する可能性も指摘されている。長きにわたり欧州で暮らしてきた人たちが帰還し、すぐに安定的に暮らせるかは不透明な情勢だ。

 一連の欧州での動きに対し、国連難民機関(UNHCR)は10日、難民申請の一時停止などに一定の理解を示した上で、シリア難民に他国の難民申請者と同様の権利が引き続き与えられるべきだとした。また、人々が迫害される危険のある国へ難民を追放してはならないとする「ノン・ルフールマンの原則」に基づき、難民を強制的に送還すべきではないと釘を刺してもいる。

 国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは同日、半世紀以上にわたるシリアでの残虐行為と弾圧を一夜にして元に戻すのは不可能であり、情勢が非常に不安定だとして、欧州各国による難民申請停止の撤回を訴えた。

 ドイツ内務省によれば、同国には現在およそ98万人のシリア人が暮らす。そのうち71万人ほどが難民認定を受けたとされる。

 独公共放送のドイチェ・ヴェレ(DW)は、昨年末までにドイツ国籍を取得したシリア人は16万人に上るとし、シリア人労働者は特に医療分野において重要な役割を果たしていると伝えた。ドイツではすでに20万人に上る看護師が不足し、仮にシリア人の大量追放が起きれば、医療においてドイツ人が打撃を受ける可能性も示唆している。