米国の医療保険大手CEOが殺害された事件で、犯人と見られる男が逮捕・起訴された。殺害当初からネットには犯行を称賛する声があふれ、被告を英雄視する異様な状況が続いている。被告は有名大学で工学修士まで取得したエリート。なぜ、犯行に及んだのか。動機の全容はまだ解明されていないが、深刻化する「医療格差社会」への人々の激しい怒りがあらわになった。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
米ニューヨークのマンハッタンで12月4日、医療保険大手のCEOが銃殺された事件は、発生から5日目の重要参考人逮捕で急展開した。9日朝(米東部時間)、ニューヨークから西に450キロほど離れたペンシルべニア州で拘束されたのは、ルイージ・マンジオーニ被告(26)。ニューヨークでは殺人罪や、銃の所持、偽造文書所持の罪などで起訴された。
警察によると、男が所持していたリュックサックから銃と消音器が発見された。どちらも3Dプリンターで製造されたものだとされる。その他、偽造された身分証明書や、保険業界への不満と今回の殺害を認めるような、手書きの「マニフェスト」が見つかっているという。
殺されたのはユナイテッドヘルス・グループ傘下の保険会社CEOのブライアン・トンプソン氏(50)。殺害当日に開催予定だった同社の年次投資家会議に向かう途中、背後から撃たれている。
重要参考人の逮捕により、解決に向け大きく進展したかのように見られる銃撃事件だが、複数の当局関係者が怒りの矛先を向けたのは、事件直後から犯人を「英雄」とみなし盛り上がる多数のネット民に対してだ。
ペンシルベニア州のシャピロ知事は9日夜の会見で、米国では政策の違いを解決したり、自分の意見を表明したりするために「冷酷に」人を殺してはならないと発言。トンプソンCEOは夫であり、2人の息子の父親であったと述べ、ネットの一部で銃撃犯の行為が称賛される状況に対して「彼は英雄ではない」と、強い調子で糾弾している。
多数の米ネット民はなぜ、犯人を賛美するような言動に走っているのか。