薬きょうに書かれた3つの「d」ワード
ネットに投稿したある人物の母親は乳がんにかかり、治療に必要な化学療法に月々3万ドルが必要だが、保険会社から支払いの上限に達したため今後は支払わないと通達された。医師からは、両親が離婚すれば(収入が減り)公的医療保険で賄えるのではないかと助言されたという。「利益のために人を死なせるなど、一体どういう会社だ」と書き、母親の命をないがしろにする国の医療システムにも憤りをあらわにしている。
ステージ3の進行性悪性腫瘍と診断された男性は、画像診断の費用の支払いを保険会社から「それほど深刻ではない」という理由で拒否され、現金1500ドルを自費で賄ったという。
多くの市民が医療費や保険料の負担にあえぎ、適切な医療を受けられない一方で、殺害されたトンプソンCEOの昨年の報酬は、基本給100万ドルにボーナスを加えた1020万ドルに上ったとされる。同氏がCEOをつとめた保険会社は4900万人の米国人に保険を提供し、昨年は2810億ドルの収益を上げた。
アルジャジーラに寄稿したコラムニストは、保険請求を拒否されることは人々にとって「死刑判決に等しい」としている。そして、支払い拒否は保険会社幹部の「給与維持のため」だとも批判した。
トンプソン氏の殺害は、早くから保険業界のあり方に不満を持つ者の犯行と見られていた。現場に残された3発の実弾と薬きょうに「deny(拒否)」「defend(防護)」「depose(追放)」という言葉が、それぞれ刻まれていたからだ。
これらの言葉は、2010年に刊行された「Delay Deny Defend」という、保険会社による支払い拒否に関する本のタイトルにそっくりだと話題になった。内容は、保険会社がどのようにして保険料の支払いを遅らせたり(delay)、拒否したり(deny)、また請求者に訴訟を強制し、自社の行動を防衛(defend)したりしているか、というものだという。