米大統領選では、選挙人票でも一般有権者の投票でもトランプ氏の支持が上回り、上下院で米共和党の議席が過半数という結果になった。大敗を期したかに見える米民主党はこの選挙から何を学ぶのか。今回の敗北は、アメリカにおけるリベラルの敗北と見るべきなのか──。同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科・准教授の三牧聖子氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──大統領選の結果を見て何を感じましたか?
三牧聖子氏(以下、三牧):各州を見れば接戦だったところもあり、民主党内でもその点を強調する見方もあります。でも、激戦州7州すべてでトランプ氏が勝利して、一般有権者票でもトランプ氏が勝利しました。しかも、ハリス氏が獲得した票は、2020年大統領選でバイデン氏が獲得した票よりも、800万超も少なかった。
こうした事実を踏まえると、民主党としては完敗と認め、党の路線や戦略のどこが間違ったのかを分析し、根本的に立て直すことこそが大事だと思います。
今回、多くの有権者はインフレや移民問題に主な争点を見出し、この2つの問題でトランプ氏はハリス氏より信任されました。特徴的だったのはマイノリティの票がトランプ氏に流れたことです。とりわけヒスパニックの労働者が、トランプ氏の経済政策に期待しました。
また、ハリス氏は自分が大統領になったら人工妊娠中絶の権利を保障すると掲げて、人工妊娠中絶を争点にしようとしましたが、うまくいきませんでした。
厳格な人工妊娠中絶の制限に賛成する人は、民主党支持者はもちろん、共和党支持者や無党派層にも多くありませんが、かといって立法を通じて連邦レベルで中絶の権利を守るというやり方に皆が賛成なわけではありません。
この点トランプ氏は、非常にうまく立ち回りました。個人としては厳格な中絶制限を支持しているわけではありませんが、一部の州が厳格な中絶制限をしていることはあくまで州の問題なので尊重するという姿勢をとったのです。
人工妊娠中絶の問題は州単位で考えて、それぞれがルールを決めるという今回のトランプ氏の主張のほうが、州の連合体としてつくられたアメリカという国の成り立ちにも沿った考えとも言えます。
今回は、大統領選にあわせる形で中絶の権利についての住民投票も行われていました。こちらについては中絶の権利を守るための投票をして、大統領選はトランプ氏に入れたという人も少なくなかったと思います。