「労働者を見捨てた民主党が、労働者に支持されないのは当然」

──経済政策で言うと、ハリス氏は住宅購入支援、食品価格の引き下げ、子育て世帯への税額控除などの提案を出しました。それに対して、トランプ氏は減税と関税を一律10%、中国に対しては60%という強烈な提案でした。

三牧:ノーベル経済学賞を受賞したダロン・アセモグル マサチューセッツ工科大学(MIT)教授を含め、経済学者たちはトランプ氏の経済政策を批判し、ハリス氏の経済政策を支持する声明を10月に発表しました。それだけ関税を上げれば、むしろインフレは促進される──という指摘です。

 ハリス氏も、自分の経済政策を説明する時に「ノーベル経済学賞の学者が自分の政策を支持している」、さらには「ゴールドマンサックスが支持している」という言い方をしました。

 大統領選が終わった後、民主党系の左派議員バーニー・サンダース上院議員が「労働者を見捨てた民主党が、労働者に支持されないのは当然」と言って民主党を痛烈に批判しました。

 中間層向けの経済政策を出しておきながら、庶民感覚からかけ離れた権威やエリートのお墨付きを強調して経済政策を主張するのは、共和党に流れつつある労働者層をいかに引き留めるのかという点で、研究が足りなかったかもしれません。

 しかも、ハリス氏が経済政策を強く打ち出していたのは9月頃まででした。後半に入ると、「トランプ氏は民主主義の脅威」「彼はファシスト」「権力の座に戻してはいけない」といったイデオロギー的なトランプ批判を前面に掲げたのです。

 でも、一般的な人々はトランプ氏のこれまでの民主主義や人権を軽視する発言を知っています。誤解を恐れずに言えば、多くの有権者が民主主義や人権の危機よりも、来月の支払いに四苦八苦する自分たちの暮らしの危機を重視したということです。

 その中で、「アメリカ・ファースト」をためらわず掲げ、「アメリカの労働者と産業を守る」と打ち出したトランプ氏に惹かれたのだと思います。

──確かに、ハリス氏には目を引くような戦略も戦術もありませんでした。