ハリスの敗北はリベラルの敗北を意味するのか?
三牧:ハリス氏はセレブをたくさん動員しましたよね。選挙の終盤でレディー・ガガを呼んだ時には、自分の演説を短めにしてガガに場を譲りました。主役はどちらなのかという印象でした。
きらびやかなセレブを大動員する選挙戦は、民主党が取り戻すべき労働者や庶民の心を離反させてしまった面もあります。
また、ハリス陣営は献金額ではトランプ陣営を圧倒しましたが、集めた献金がどこにいったのかという点が問題視されています。
ハリス氏への献金者の中には、反トラスト法の専門家で、テック企業の規制に力を入れてきた連邦取引委員会のリナ・カーン委員長の除名を求めるCEOなども含まれています。
当初は中間層にいかに訴えかけるかを模索していたハリス氏なのに、次第に「民主主義の危機」という抽象的な主張に傾いていった背景には、大企業からの献金によって、大企業を敵に回すような政策がとれなくなったという面もあったかもしれません。
ハリス氏の敗北をリベラルの敗北と見るのは、彼女の選挙戦の実態から見ると違和感があります。
気候変動や移民政策などについて、彼女がリベラルな主張をしていたのは、2020年の大統領選に名乗りを上げた頃まで。そのリベラルな主張も、どれほど政策的な内実を伴っていたかは疑わしいところがあります。
2020年、民主党の大統領候補予備選に挑戦したハリス氏は、バーニー・サンダース議員と同じくメディケア・フォー・オールを掲げました。ところが、この点を同議員に詰め寄られた時に自分が意図する政策ついて具体的に説明できず、主張自体を取り下げました。ハリス氏は予備選が本格的に始まる前に撤退することになったのです。
今回の大統領選の実態がどこまでリベラルだったのかという点を見ても、ハリス氏は持論だったトランスジェンダーの権利についても選挙戦中はほとんど語りませんでした。
気候変動に関しても、彼女はカリフォルニア州の司法長官時代や上院議員時代には環境負荷が高いフラッキング(水圧破砕法)に反対していましたが、今回の大統領選では、天然ガスの採掘が盛んなペンシルベニアでの得票を意識して、フラッキングを認める発言をしています。
気候変動問題を重んじる若者たちからは失望の声も聞かれました。
こうした選挙戦の実態を見るならば、彼女は「リベラルだったから負けた」わけではなく、むしろ「リベラルを貫けなかったから負けた」という面が多分にあります。
ハリス氏の敗北をどう分析するかは、民主党の今後にも関わります。ジェンダー平等や気候変動、メディケア・フォー・オールといったリベラルな主張を掲げていては勝てないのだといった総括でいいのか、よくよく考えるべきだと思います。現在もさまざまな議論が行われています。