世界平和統一家庭連合(旧統一教会)でおよそ60年近く過ごし、様々な重要なポジションを経験した大江益夫氏。統一教会がメディアで盛んに取り上げられた1992年から1999年のおよそ7年間は、統一教会の広報担当(1993年から1999年は広報部長)を務めた。
そんな大江氏をジャーナリストの樋田毅氏が長時間インタビューした内容をまとめた書籍が『旧統一教会 大江益夫・元広報部長懺悔録』(光文社新書)である。そこには、知られざる統一教会の様々な秘密、教団内部の人間関係、信者たちの葛藤などが記されている。
同じく90年代に世を騒がせたカルト宗教団体、オウム真理教で広報担当を務めた上祐史浩氏にこの本を読んでもらい、感想を聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──この本を読んで、どんなことを感じましたか?
上祐史浩氏(以下、上祐):この本によると、大江益夫さんは統一教会の責任役員8人の内の1人であり、公安調査庁の方から「日本の統一教会のナンバー3にあたる人物」と見なされていたと書かれています。
1984年に襲撃された統一教会の総合日刊紙「世界日報」の副島嘉和(当時の編集局長)の告発などは有名ですが、それ以外では、教団内部のこれだけ高い立場の人の暴露というのは初めてではないでしょうか。
統一教会は霊感商法を中心とした様々な問題行為は「信者が勝手にやったこと」「教団は関与していない」と説明してきましたが、そうした問題行為が盛んに行われた時期に広報部長を務めた人物の告白は、宗教法人解散命令請求の審理の重要な争点である教団の組織的な関与の有無の判断においても、非常に重要な証言だと思います。
大江さんの主張を読むと、霊感商法や過剰献金は統一教会の組織的な方針だったとしか考えられません。大江さんも、「この本を発表したら命を狙われる危険があると知人から心配された」と書いています。
また、安倍晋三元首相が凶弾に倒れた後に、社会的な批判を浴びた統一教会と自民党の関係に関しても、重要なことが書かれています。
一般的には、1968年に統一教会が国際勝共連合という共産主義と戦う政治団体を日本と韓国で相次いで発足させ、安倍元首相の祖父である岸信介元首相とタッグを組み、福田赳夫元首相、安倍元首相といった自民党のタカ派へと受け継がれてきたと言われています。この本の中で、大江さんはそのことも認めています。
──岸信介元首相さんとの関係がいかに濃密だったかという点が細かく書かれています。
上祐:はい。大江さんは、教団の研修に岸信介元首相が現れたのを見てびっくりしたと書いています。また、教団による自民党議員の選挙支援についても、初期は自衛隊元幹部等が中心だったものが、その後、憲法改正や家族重視という思想で一致したため、1986年以降は大規模に自民党を応援するようになったと書かれています。
現に、1986年に衆参ダブル選挙で大勝した中曽根政権の頃には、統一教会と自民党の間には政策に関する確認書があったと打ち明けています。一般に言われてきた以上に深い関係だったということでしょう。
1990年代になると、桜田淳子さんなどが参加して話題になった合同結婚式や霊感商法がメディアから批判されたこともあり、自民党は統一教会との関係を弱めましたが、その後、ほとぼりが冷めるとまた関係が復活させたとも書いています。
それだけの関係だったのに、2022年に安倍元首相が銃撃され、統一教会のこれまでの問題に再び注目が集まると、自民党は手の平を返して関係を否定しました。それが本当に許せないと大江さんは怒りに震えています。
「統一教会はもはや自民党とは絶縁して、自分たちの宗教政党を作るべきだ」と本書の中で語っていますが、これが逆に、これまでの関係の深さを印象付けていると感じました。