本書が示唆する「赤報隊」と統一教会の関係
──統一教会の側にはそういう感覚や本音があるのでしょうね。
上祐:この本の中で大江さんが明かしたもう1つの重要な点は、謎の多い統一教会の裏部隊(暴力組織)の存在です。
大江さんは、1979年に日本の国際勝共連合の渉外局長に就任しています。当時の日本は冷戦下で、ソ連がいつ侵攻してくるか分からないという危機感がありました。
いざそのような状況になったら自民党政府では頼りない。そこで、統一教会と関係の深い自衛隊の元幹部などを選挙で勝たせて国会議員にし、いざソ連が攻めてきたらクーデターを起こして臨時政府を立ち上げるという「幻のクーデター計画」があったと書いています。大江さん自身も関与していたようです。
さらに、大江さんを含む当時の勝共連合のメンバーが、教団関連の銃砲店で確保した狩猟用の散弾銃などの射撃訓練をしたり、自衛隊の入隊訓練までしたりして、数百名規模の民間武装グループを組織したとも吐露しています。
そして、大江さんは勝共連合の渉外局長という立場上、教団に裏部隊が存在することを多少なりとも知ることになり、その裏部隊が赤報隊事件(※)に関わっていた可能性があるとまで書いています。
その事件で使われた散弾銃や銃の加工などから見ても、いわゆる右翼ができることではなく、教団の裏部隊の関与の可能性があると証言しています。
※1987年から1990年にかけて「赤報隊」と名乗る犯人が、朝日新聞社や、同社の記者などを襲撃した連続テロ事件。犯人は特定されていない。記者の小尻知博氏が散弾銃で銃撃されて亡くなった。
以前から統一教会問題を追っていた衆議院議員の有田芳生氏は、オウム真理教に続いて統一教会も摘発すると言っていたのに、上からの圧力でその話がなくなったという話を公安幹部から聞いたと、安倍元首相射殺事件後にメディアの取材で語っています。
有田氏が手に入れたと思われる警察の内部資料には、統一教会のそうした危険な側面がいろいろ記載されていました。今回の大江さんの証言は、そうした情報とも一致します。
赤報隊事件では、小尻知博さんという朝日新聞の記者が亡くなりました。本書によれば、統一教会の教義によって大江さんは来世を強く信じていますから、殺害された小尻さんと来世で会うかもしれないと考えており、今の内に謝罪しておきたいという強い思いを持っています。
もちろん、本当に謝罪すべきは小尻さんを殺害した犯人です。大江さんも、犯人が謝罪せずに「この世かあの世で(※)のうのうと生きていることは許しがたい」と語っています。
とはいえ、誰がどのように赤報隊事件に関わったのかまでは書いていません。赤報隊事件に関する抽象的な告白が、最後に記載されたこの本のクライマックスのように感じられました。
※大江益夫さんはあの世を信じているので、あの世での生まで含めて語っている。
──大江さんは、最終的に統一教会を脱退していますが、今も文鮮明を「文先生」と呼びます。ここまで問題を赤裸々に語り、批判しながらも、どこかまだ統一教会の一部であるような印象も受けます。