順位をつけるということの意味とは(写真:アフロ)

 神奈川県茅ケ崎市の香川小学校は、各学年5、6クラスある、全校児童1000人を超えるマンモス校である。この公立小学校は通知表をやめた。子どもの学習意欲を高める目的で明治時代から始まった通知表には、実は決まった様式も作成する法的義務もない。

 なぜ香川小学校は通知表を廃止したのか。その結果に何が起きたのか。『通知表をやめた。茅ヶ崎市立香川小学校の1000日』(日本標準)を上梓した香川小学校前校長の國分一哉氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──香川小学校は2020年から通知表、いわゆる「通信簿」を使って保護者に子どもの評価を伝えることをやめました。どういった経緯で通知表の廃止に至ったのでしょうか。

國分一哉氏(以下、國分):2020年度から学習指導要領が大きく変わりました。それまでは、「関心・意欲・態度」「思考・判断・表現」「技能」「知識・理解」という4つの観点で評価していましたが、これが新学習指導要領では「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という3つの観点に整理された。

 この観点ですべての教科を評価するのです。そうすると、従来の通知表は使えなくなり、新しい通知表を考えなければならない。では、何をどのように変えるのか。まずは先生たちと新しい学習指導要領を勉強していくところから始まりました。

 我々教員たちが、それまで通知表をどのように見ていたかというと、通知表とは「かけた労力分の成果が感じられないもの」だったのです。

 通知表の目的は、保護者たちに生徒の学業の状態などをお知らせして、それを見て子どもたちが来学期の学習意欲を燃やす、あるいは「自分の強いところはここだからもっと伸ばしていこう」などと考える、本来はそういうふうに使ってほしいものです。

 しかし、多くの場合、「できる」が多ければ良しという見方をする。あるいは、「できる」が少ないから勉強は苦手という短絡的な評価として受け取ります。

 通知表が勉強のモチベーションになる子どもは確かにいますが、全体で見れば、そちらの方が少数です。成績の良くない子は通知表を家に持ち帰ることがストレスだし、怒られることもある。自分をダメな人間だと思ってしまう。

 私たちは常日頃、子どもたちに「みんな違っていいんだよ」と言って褒めたり認めたりしているのに、通知表を渡した瞬間に「先生、俺のこと褒めていたけど普通じゃん」「あそこあんなに褒めてくれたのに評価は普通なんだ」と受け取ってしまう。

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