知識を詰め込む教育は意味を成さない時代になる(写真:アフロ)

 ChatGPTの能力の高さに世界が震撼している。早くも欧州ではAIの使用に関する規則案が提示された。また、AI研究の第一人者ジェフリー・ヒントン氏はGoogleを退社してAIの危険や弊害について啓蒙する活動に転じた。そして、ChatGPTを提供するオープンAI社のサム・アルトマンCEOも今月16日、米上院の公聴会で、自ら進んで安全にAIを使うためのルール作りを政府にうながした。

 AIの登場により、在り方が変わると真っ先に言われるのが教育だ。「詰め込み式」などとも言われたこれまでの教育ははたして存在意義を保てるのか。『冒険の書 AI時代のアンラーニング』(日経BP)を上梓した連続起業家の孫泰蔵氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──本書を読みながら、AIの発達に伴って知識を詰め込む教育が終わり、詰め込みを促すための競争的な教育も終わっていくと感じました。あらためて、学力を競い合うこれまでの教育について孫さんのご見解を教えてください。

孫泰蔵氏(以下、孫):これまでは学力を伸ばすということに意味がありました。しかし、これから本格的にAI時代に突入します。そうすると、知識を正しく記憶して、適切に応用するという形の学力はあまり意味をなさない時代になっていく。

 これは、実はずっと持ち続けてきた問題意識だったのですが、まさかこんなに早くそんな時代がやってくるとは想像していませんでした。

──話題のChatGPTの登場などからお感じになっていることですか?

孫:そうです。ジェネラティブAI(テキスト、コード、画像、音楽など、新しいコンテンツを入力情報に基づいて作成するAI)が、このタイミングでこれだけの精度で登場してきた。さらに、日進月歩という言葉のとおり、続々と新しい技術が出てきて発達している。このスピードには正直私も恐怖を覚えます。

──AIの登場によって、教育が機能不全に陥っていくということですが、教育のどの辺から崩壊していくというイメージはありますか。

孫:私個人の考えですが、現在の教育の在り方は全般的に陳腐化すると思います。今の小中学生が社会に出る頃には、彼らが毎日学校でやっている学びは、かなり必要のない知的訓練になっているという気がします。強いて言うならば、電卓があるのに、そろばんを学んで計算のスピードや量を競っているような状況です。

──「私たちの心の中から追い出さなければならないものは、私たちの心の中に巣くう、この『生存競争を勝ち抜けなければならない』という強迫観念なのです」と書かれています。学力に限らず、競争が終わっていくとお考えですか。

孫:たとえば、スポーツやゲームの中で競争を楽しむ文化は残ると思います。しかし、仕事やビジネスにおいて、同じ観点や軸で作業の量やスピードを競い合う競争はなくなっていくでしょう。作業的な部分をAIが人間から奪っていくからです。作業効率や生産性を競うことが人間の仕事ではなくなっていくと思います。

──本の中に、これからの教育についての見解が書かれています。その中で、物事を学ぶときに、これまでは何でも基礎や基本を学ぶことを大事にしてきましたが、孫さんは最初に基礎を固める学びの形を否定されています。

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