宝塚大劇場。ここから数々のスターが誕生した(写真:663highland, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons)

 長きにわたり日本の労働市場を支えてきた終身雇用制度が終焉を迎えつつある。総務省統計局の「労働力調査結果」によると、1985年の転職者数は159万人。1995年には264万人、そして昨年(2022年)の転職者数は303万人である。転職者の中には同業種ではなく、全く新しいことにチャレンジしようという人もいるだろう。

 また、人生100年時代になり、定年退職後のキャリア形成にも注目が集まっている。65歳で退職した後には、長い余生が待ち構えている。いかにして余生を充実したものにするか。それが、その後の人生を大きく左右する。

 早花まこ氏は、タカラジェンヌからライターへと異色のキャリアチェンジを果たした人物である。早花氏自身、宝塚歌劇団退団後、新たなキャリアに踏み出す際に戸惑いを感じた経験を持つ。その戸惑いを解消するため、彼女は9人の元タカラジェンヌにインタビューし、『すみれの花、また咲くころ タカラジェンヌのセカンドキャリア』(新潮社)を上梓した。

 セカンドキャリア選択時に気を付けるべきこととは何か、新しいことにチャレンジするときの心構えとは──。早花氏に話を聞いた。

──『宝塚歌劇団退団直後、残りのご自身の人生は「余生」であると考えていた』と書かれています。退団時は30代後半。「余生」という言葉を使うには、いささか若すぎるのではないかという印象を受けました。

早花まこ氏(以下、早花):タカラジェンヌ以外にもスポーツ選手などは、若くして「余生」に突入してしまう可能性がある職業です。

 華やかな世界では、ファンの方が客観的に見て「あの人とても輝いているな」と感じる時期と、本人が「好きなことを精一杯やっている」という時期が重なることがあります。周囲の人も本人も、そのような時期を「ピーク」と呼ぶのではないでしょうか。

 退団、引退というかたちで華々しい世界を離れると、ピークは終わりを迎えます。ゆえに、どうしても残りの人生を「余生」という言葉で表現してしまいたくなるのです。

 でも本当にそうなのか、と私は疑問を投げかけたいです。

 宝塚歌劇団では、トップスターは常に中央でスポットライトを浴び、主役を演じている。退団後も芸能界で活躍している元トップスターの方はたくさんいらっしゃいます。彼女たちがミュージカルや映画で母親役や悪役を演じることは、珍しくはありません。

 それを見て、「元トップなのに、主演ではなく端役をやっている」と感じる人もいるかもしれません。でも、本人はずっとそういう役をやりたがっていたという可能性も十分にあります。母親役や悪役を演じて、自分の芸の幅が広がった、成長したと感じているかもしれません。

 客観的に見たときのピークが、本人のピークである、と断言することはできないのです。

──早花さんご自身、現在「余生を過ごしている」と思われますか。

早花:全く思いません。

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