「2027年に中国は台湾への侵攻作戦を開始する」。そう考える米軍幹部および専門家は少なくない。中国共産党創設からの悲願である「中国統一」は、台湾の実効支配により実現する。多くの中国人はそう信じて疑わない。それに応じるかのように、習近平は人民解放軍の現代化を推し進めている。
中国は本当に台湾に侵攻するのか。なぜ侵攻開始は2027年なのか。台湾侵攻により日本はどのような影響を受けるのか──。『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』(講談社+α新書)を上梓した山下裕貴氏(陸上自衛隊元陸将)に聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター・ビデオクリエイター)
──中国による台湾侵攻の流れについて教えてください。
山下裕貴氏(以下、山下):台湾侵攻は、中国のトップである習近平の「決心」から始まります。
習近平の決心が固まり次第、認知戦が開始されます。台湾人が政府に不信感を抱くようなフェイクニュースや、反政府メディアを活用した親中的な情報の拡散。これにより、台湾政府を弱体化させます。
次は、上陸作戦準備です。中国国内の様々なインフラおよび輸送手段などを軍に徴用するための準備をします。さらに、弾薬や燃料、衛生資材といった戦争に必要な道具を、台湾海峡に接する福建省に大量に運び込む。
そして、上陸作戦開始という段階でハイブリッド戦争を展開します。ハイブリッド戦争とは、正規戦と非正規戦を組み合わせた新しい戦争です。正規戦はいわゆる軍事的戦闘、非正規戦はゲリラ活動や諜報活動、秘密工作、破壊工作、テロといった不明確で不透明な戦闘を指します。
手始めに、台湾の反政府組織に働きかけてテロを起こさせる、サイバー攻撃でインフラのサーバーを麻痺させる、通信網を妨害して台湾内外の連絡網を遮断する。それに並行して、台湾の政治的リーダーや軍の幹部を暗殺します。
次に、精密誘導ミサイルで、台湾軍のインフラ施設や台湾政府の中核部を爆破する。さらに、戦略爆撃で台湾の防空システムを叩きのめす。そうして初めて中国の陸上部隊が台湾西部沿岸に上陸します。
今述べたように、台湾侵攻は急に始まるようなものではありません。中国の緻密な作戦準備がある。台湾国内にフェイクニュースが大量に拡散される、テロが発生する、人民解放軍が福建省に集結している。そういう兆候が見られるはずです。
──ハイブリッド戦の中の情報操作や偽情報の拡散は、日本の石垣島などにも波及すると書かれていました。そのような工作は、日本に対して有効なのでしょうか。
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