「持続化給付金事業」の再受託などで批判を集めた電通(写真:つのだよしお/アフロ)

「2位じゃだめなんですか?」

 2009年11月、国立印刷局市谷センター体育館に民主党の蓮舫議員の声が響きわたった。文部科学省と理化学研究所が進めていた、スーパーコンピューター演算速度世界1位の座をかけた開発事業に対して、事業仕分けで放たれた言葉だ。

 事業仕分けから約13年半。果たして税金の行く先は適正になったのであろうか。税金の使い道は国民が納得できるものなのか。『追跡 税金のゆくえ ブラックボックスを暴く』(光文社新書)を上梓した高橋祐貴氏(毎日新聞社記者)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター・ビデオクリエイター)

──本書では、一般社団法人が国や地方自治体が進める公的な事業の受託金を中抜きする温床になっている現状を指摘しています。

高橋祐貴氏(以下、高橋):一般社団法人とは、その法人の構成員への利益分配を目的としない団体に法人格が与えられたものです。

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、2020年5月に収入が減った中小企業・個人事業主らに現金を給付する「持続化給付金事業」が開始したことは記憶に新しいと思います。

 この事業を委託していた団体が「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」でした。委託とは、政府からお金をもらって事業を運営することです。

 一般社団法人サービスデザイン推進協議会は、受託費769億円の97%の額に当たる749億円で事業を電通に再委託していました。さらに、電通も複数の企業に再々委託、再々委託先の企業も再々々委託いたことが発覚。最終的には九次下請け、500を超える企業がこの事業に関与していたことがわかりました。

 サービスデザイン推進協議会以外にも、中抜きに関与している一般社団法人があることは、既に周知されています。

──広告代理店最大手の電通を中心に設立された一般社団法人が、こういった公的な事業を委託する受け皿として機能していると指摘しています。一般社団法人を設立して公的事業を受託するというスキームは、広告業界では一般的なのでしょうか。

高橋:電通以外の広告代理店の方を取材する機会がありましたが、驚いた方がほとんどでした。「自分たちでは思いもよらない手法だ」「一般社団法人に目をつけるとは、さすが電通」というような、賞賛の声もありました。

 ただ、電通には電通の事情があった、ということも確かです。

 一般社団法人という受け皿を作り、公的事業を委託する。公的事業を実施する体制は、一般社団法人をトップに、ピラミッド構造のように様々な会社や団体が下へ下へと連なっています。九次下請け、十次下請け先は中小企業がほとんど。そのような企業を潰すわけにはいかないという責務が、トップの一般社団法人にはある。

 また、一般社団法人の一次下請けである大手広告代理店であっても、自身の力だけではオリンピックや万博のような一大イベントを開催・運営することは困難です。下請けを繰り返すことで、なんとか事業を成立させることができる。大手広告代理店と下請け企業は、持ちつ持たれつの関係と言えます。

──なぜ、一般の企業ではなく一般社団法人が政府の公的事業を委託しているのでしょうか。

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