軍事演習に臨む台湾軍(写真:AP/アフロ)

 世界中が未曾有のインフレに頭を抱えている。米国では、2022年6月に消費者物価指数の伸び率が昨年比9.1%という衝撃的な値を記録。中央銀行にあたるFRB(連邦制度理事会)はインフレに対して金融引き締め(利上げ)を実施した。

 だが、今回のインフレに対する利上げは正しい選択なのだろうか。そもそも、なぜインフレは起こったのか。『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』(幻冬舎)を上肢した、評論家の中野剛志氏に聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター・ビデオクリエイター)

──本書では、インフレを「デマンドプル・インフレ」と「コストプッシュ・インフレ」の二種類に大別して説明しています。それぞれのインフレの違いについて、教えてください。

中野剛志氏(以下、中野):インフレやデフレは需要と供給のアンバランスにより生じるものです。

 デマンドプル・インフレは、需要が活性化し、供給が追い付かなくなることでモノが不足し、価格が高騰する現象です。原因として、バブルや過剰な公共投資、戦争による軍備増強などが挙げられます。

 一方、コストプッシュ・インフレは、供給力の低下よって起こります。例として、1970年代の石油ショックが挙げられます。

 石油ショックでは、原油産出国が多い中東の情勢が悪化し、原油輸出が停滞したため、原油の供給が不足して価格が高騰しました。他にも、気候変動や台風による農作物の不作により食料価格が上がることがありますが、これも、コストプッシュ・インフレの一例です。

 需要が伸びるのがデマンドプル・インフレ、供給が下がるのがコストプッシュ・インフレ。この2つは、全く異なるインフレです。

──書籍の中で、第二次世界大戦後から2021年までに米国で発生したインフレのほとんどがコストプッシュ・インフレ、もしくは、コストプッシュ・インフレの複合型である、と考察されています。デマンドプル・インフレと比較して、コストプッシュ・インフレの方が起こりやすい、という印象を受けました。

中野:第二次世界大戦後の先進国に限定すると、コストプッシュ・インフレの方が起きやすいと言えるでしょう。

 戦後の先進国は、生産力があるので需要が伸びる分には問題がありません。作れば売れるから、企業はたくさんモノを作る、設備投資を行って生産力を強化する。需要が伸びても供給がすぐに追いつくので、デマンドプル・インフレは起こりにくい。

 それにもかかわらず、インフレが起こることがあります。それは、供給力が低下した場合です。従って、先進国でインフレが発生する場合、それはコストプッシュ・インフレである可能性が高いのです。

──デマンドプル・インフレに対して、米FRBをはじめとする各国の中央銀行は「利上げ」という強力な切り札を有しています。しかし、戦後、複数回のコストプッシュ・インフレを経験しているのに、中央銀行はコストプッシュ・インフレに対して有効な対応策を持ち合わせていません。なぜ、中央銀行はコストプッシュ・インフレに上手く対処できないのでしょうか。