(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
北朝鮮は、昨年だけで過去最多の66回、弾道ミサイルを発射した。日本経済新聞によると、66発のうち実戦を意識した訓練が38発、新規開発が19発で、9発が目的不明だという。
2022年はロシアのウクライナ侵攻を機に国際社会の分断が深まり、中ロが庇い立てしたことから、北朝鮮にとってミサイルを発射しやすい環境になっていたとも言える。
北朝鮮が最も力を入れたのが新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17型」の開発だった。ICBMの発射実験は2018年米国との合意以来、停止していたのだが、米朝核交渉の決烈を受け再開した。
最近は、米韓に対する軍事的な抑止ばかりでなく先制攻撃をもチラつかせた圧力行使の側面も見せているが、これはロシアのウクライナ侵攻以降、中国・ロシア・北朝鮮の結束が固くなり、国際社会の圧力に対する対抗軸が形成されたことで可能となったのかも知れない。
ロシアのウクライナ侵攻の影響が北朝鮮核実験の再開に波及する可能性
韓国のメディアも同様の見方をしている。
中央日報は、2月24日付の社説<北核解決をこじらせるプーチンの危険な核言及>で、「ウクライナ戦争が朝鮮半島に及ぼす影響は大きい」と指摘した。その影響とは北朝鮮によるミサイルの高度化ばかりでなく、核開発にも及ぶ危険が迫っていることを意味している。
<特にロシアが今回の戦争をきっかけに従来のグローバル核規範と秩序を揺るがす状況に注目せざるをえない。そうでなくとも北朝鮮の核武装が加速している中、国際社会の牽制装置がまともに作動しない局面に流れているからだ。実際、ロシアのプーチン大統領はその間、無責任な言動を続けてきた。戦況が不利になるたびに核に言及して世界に恐怖を与え、21日の国政演説では「新戦略武器縮小条約(新START)履行停止」を宣言した。米国とロシアが核弾頭と大陸間弾道ミサイル(ICBM)縮小のために2010年4月に締結した軍縮合意が危機を迎えた>
<このようにウクライナ戦争1年は国際環境を大きく変えた。こうした変化は北朝鮮非核化目標をますます難しくしている>
こうした事態を受け、国際社会、中でも日米韓の3カ国は、北の核挑発への対応も環境の変化に合わせて徹底的に再整備する必要がある。最も重要なことは国防戦略と軍の対応態勢を徹底的に点検することである。