
(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)
韓国最大野党である共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表は、これで大統領の椅子にまた一歩近づいたのだろうか。
虚偽事実の公表の罪に問われた公職選挙法違反事件の控訴審判決で、去る3月26日、次期大統領の有力候補と目される李氏に対して逆転無罪が言い渡された。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾(だんがい)をめぐる憲法裁判所での審議が終了し、その判断が待たれているなかでの今回の判決は、韓国国内でも大きな注目を集めていた。
尹大統領の罷免が宣言されれば、その日から60日以内に大統領選挙が行われる。
だが無党派層にしてみれば、司法リスクを抱えた李氏を大統領として選んでよいのか悩ましいというのが現実だ。しかも第1審では懲役1年、執行猶予2年の有罪判決だったため、第2審で再び有罪判決が出た場合には中道派層の支持離れが懸念されていた。
李氏の司法リスクは弾劾の賛否をめぐる世論にも影響を与えていたとも報じられてきた。今回の無罪判決を受けて、弾劾の判断が最大限先延ばしされたとしても、次期大統領の就任以前に李氏の有罪が確定する見込みがほとんどなくなった。
李氏に代わる有力候補が現れないなか、李氏の司法リスクを懸念していた有権者でさえ、もはや弾劾判断の先延ばしを期待する理由はなくなったようだ。
実際、韓国ギャラップが今回の裁判の判決日を挟んだ25日から27日にかけて行った調査結果によれば、1週間前と比べて、弾劾賛成が2%ポイント増加し、反対が2%ポイント減少した。それまで弾劾反対を表明していた無党派層の一部が賛成に回ったのではとの分析がなされている。
李氏は、日本では「反日の急先鋒」として知られている。福島第1原発での処理水放出に対する反対運動など、李氏の「反日アピール」を振り返れば枚挙に暇がない。
そんな李代表の対日姿勢を着火点に、ここにきて韓国の与野党が日韓関係のあり方をめぐってお互いを罵り合っている。私は韓国に20年間住んでいるが、次期大統領として有力視されている人物の対日姿勢が、これほど話題を呼んだ人物は、ほかにいなかったような気がする。
いったい、なにが起きているのか。