
(柴山 多佳児:ウィーン工科大学交通研究所 上席研究員)
通学定期やスクールバスは「常識」だが…
子どものころ、読者の皆さんが電車やバスに乗るときは、子ども料金を払っていた(おそらくたいていは「保護者に払ってもらっていた」)であろう。未就学児は大人が同伴していれば無料で、小学生は大人料金の半額というのが、日本での鉄道やバスの運賃の「相場」である。
この「子ども料金を設定する」ということ自体は、年齢の区切り方や割引率に細かな違いこそあれど、世界的にみてもごくごく一般的なものである。シンガポールのように身長で子ども料金適用対象かどうかを決めるところもある。
また日本では中学校に進学すると大人料金を払うようになるが、通学する中高生には割安な通学定期券が設定されているのを「当たり前」と思っている方は多いだろう。
いまでは日本の子どもの99%以上が高校に進学するが、高校は義務教育である小中学校のようにきめ細かく各所にあるわけでもない。高校になると専門性の高い学科を持つ学校も増えるが、そのような高校が近くにあるとも限らない。
それでもほぼすべての子どもが高校に通学できる背景の一つには、割安な通学定期によって通学にかかる費用の家計負担が軽減されているからである。
小中学生の通学はどうだろうか。こちらは義務教育なので、近年の少子化で地方部では統廃合が進んでいるが、高校よりははるかに高い密度で設置されている。
公立の小中学校は、小学校は4km、中学校は6kmを超えない通学距離が国によって定められている。これを超える場合は、スクールバスなどで通学手段を確保することが行政に求められており、国庫補助もある。これらは公的な財源で賄うのが「常識」だろう。
茨城県ひたちなか市のように、スクールバスを走らせる代わりに鉄道での通学定期券代を支給する例もないわけではない。このような方法は2006年に文部科学省が「路線バス等をスクールバスとして活用するための基本的な考え方と具体的な取組方策について」としてまとめてもいる。

あとの議論で重要になるのだが、ここでいう「行政」とは実は市町村に設置されている教育委員会で、公共交通を担当する部署ではない。このことは、上述の2006年の文部科学省のとりまとめの宛先が、公共交通担当部署ではなく教育委員会であるところに端的に表れている。財源も、交通に関係する予算ではなくて、教育予算である。