幽体離脱には、物理的な幽体離脱と脳内現象としての幽体離脱がある(写真:Fortean/アフロ)

 ふわふわと宙に浮かんだ透明な自分が、地上にいる自分自身を見つめている。「幽体離脱」と聞くと、そんなイメージを抱く人も多いのではないだろうか。

 20世紀まで、幽体離脱は一種のスピリチュアル体験であり、眉唾モノである、という考えが一般的であった。しかし、21世紀に入り、幽体離脱を取り巻く環境は大きく変化した。てんかん治療のため、脳のある部分に電気刺激を与えると、まるで自分のからだが浮き上がり、自身の身体を見下ろしているような感覚を得たという患者の証言が学術論文として発表されたのだ。

 幽体離脱は、何らかの脳への働きかけにより「からだ」が錯覚を感じているものである。そう語るのは、小鷹研理氏(名古屋市立大学芸術工学研究科准教授)である。「からだ」とは何か。なぜ「からだ」は錯覚を感じるのか。錯覚と幽体離脱の関係とは──。『からだの錯覚』(講談社ブルーバックス)を上梓した、小鷹氏に話を聞いた。

──まずは、先生の研究対象である「からだ」の定義について、教えてください。

小鷹研理氏(以下、小鷹):自分の研究について説明するときは、必ず「からだ」というひらがな表記を用いています。

「体」や「身体」という表記は、どちらかというと物質的なものだ、と僕は感じています。血液が流れていて、筋肉が動いている。だから、「体」や「身体」は医学や生理学的なイメージを与えかねない表現です。

 それに対して、僕の研究対象である「からだ」は、主観的なもので、自分自身の頭の中にある「からだ」というイメージです。「これが自分の『からだ』だ」と自分で認識できるもの。物質的な「身体」よりもずっと柔らかなイメージを持っています。

──「からだの錯覚」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

小鷹:具体例を二つ、紹介したいと思います。まずは、基本的な「からだの錯覚」である「ラバーハンド錯覚」について。

 以下のイメージ図にあるように、体験者には、手のひらを下にした状態で右手をテーブルの上に置いてもらいます。体験者から右手が見えないよう、衝立で隠します。そして、衝立の横、体験者が見える位置に体験者の右手を模したラバーハンド(ゴム製の手)を置く。このとき、体験者の右手とラバーハンドが同じ向きになるようにします。

 この状態で、体験者の右手とラバーハンドに、実験者が同じタイミングで触覚刺激を与えます。ただつんつん触るだけでもいいですし、さすったりなでたりしてもいい。体験者にはラバーハンドを見てもらいましょう。

 すると、ある程度錯覚に対して感度がある人は、見えていない自分の右手ではなく、ラバーハンドを自分の手のように感じるという不思議な感覚を体験するのです。

 これは、触られている本当の手ではなく、同じタイミングで触覚刺激を受けていて、なおかつ目視可能なラバーハンドを自分の「からだ」の一部として受け入れてしまうという錯覚現象です。

 もう一つ紹介したいのは「フルボディ錯覚」です。

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