共感特性が高いほど錯覚を感じやすい

小鷹:ラバーハンド錯覚では錯覚の対象は「手」に限定されていましたが、フルボディ錯覚ではアバターやマネキンを自分の「からだ」全体である、という錯覚を感じることができます。

──小鷹先生は、ご自身のことを「錯覚を感じやすいタイプ」と書籍内で分析されています。「錯覚を感じやすいタイプ」とはどのような人を指すのでしょうか。

小鷹:簡潔に言うと、「感情移入しやすい人」って感じですね。

 映画を観たり、小説を読んだりしていると、見ず知らずの他人のことばかり書いてある。でも、ふと気づくと登場人物に感情移入して、映画や小説で起こった出来事に対して怒りを感じたり、喜んだりする。

 感情移入をしやすいタイプか、しにくいタイプかということは、アンケートで測定可能とされています。専門用語では、これを「共感特性」と呼びます。共感特性が高い人ほど錯覚を感じやすい。そんな面白い研究結果も出ています。

──長年、錯覚の研究をしている中で、「錯覚を感じるためのスイッチを見つけた」と書かれていました。これは、どのようなものなのでしょうか。

小鷹:これは、先ほどの共感特性に強くかかわるものです。

 その日の体調や気分によって、映画や小説に対する感情移入の度合いは異なりますよね。また、意図的に共感しないようにすることも可能です。つまり、共感の度合いはその時々である程度コントロールすることができる。

 あくまでも僕のイメージですが、自分の内部と外部をつないでいる「ドア」のようなものがあります。そのドアは、ガバガバに開いていることもあれば、がっちりと閉まっていることもある。

 ドアがガバガバな人は、いわゆる「共感特性が高い人」です。

 僕は、錯覚にうまく入り込めないときは、そのドアを意識的にオープンにする。そうすると、すっと錯覚を受け入れることがあるし、やっぱりそれでも難しいときはある。

 例えば、ラバーハンド錯覚であれば、「よし、このラバーハンドを自分の手として受け入れよう」という覚悟をするという感覚でしょうか。

──全身の錯覚というと、やはり昨今話題となっているメタバースが頭に浮かびます。先生は、書籍内でメタバースの危険性にも言及されていました。