(昆虫料理研究家:内山 昭一)
食用コオロギの養殖と商品開発を展開してきたベンチャー企業グリラスが、本年11月7日付で徳島地裁に自己破産を申請した。昆虫食業界を先導してきたグリラスがなぜこのような事態を招いたのか。昆虫食研究家の内山昭一氏は「グリラスの企業活動の実態は『商売』ではなく『研究』だったのではないか、このことが今回の事態を招いた主因のように思えてならない」と指摘する。
順調な船出に見えたが
徳島大学に「生物資源産業学部」が新設されたことがグリラス創業の端緒になった。社会に役立つ研究が求められるなか、「フタホシコオロギ食用化プロジェクト」がクラウドファンディングで自動飼育装置の作成費のための目標金額を達成した。バイオテクノロジー部門でフタホシコオロギの発生研究を行ってきていた三戸太郎氏と渡邉崇人氏が「将来の食料不足を解消する研究を進めていきたい」と熱く語っていたのを覚えている。
2017年12月、昆虫料理研究会(現在のNPO法人昆虫食普及ネットワーク)では昆虫食を推進する立場からこのプロジェクトに共感し、徳島大の食用コオロギと餌用コオロギを食べ比べるワークショップを開催した。開催日がちょうど24日だったので、題して「徳島大コオロギとふつうのコオロギ食べ比べ実験~今年のクリスマスはchickenの代わりにcricketで祝おう!~」だった。
案内には「いま世界各地で食べられているヨーロッパイエコオロギ(=ハウスクリケット)よりも、フタホシコオロギは大きくて肉厚です。徳島大学の『フタホシコオロギ食用化プロジェクト』で収穫されたフタホシはどんな味がするのでしょうか。市販の普通のフタホシと食べ比べてみましょう」とある。
参加者12名の味についての評価(甘味、塩味、苦味、旨味、香り)をみると、徳島大の方が旨味と香りが強いと答えた人が8名いた。このことから飼育環境や餌によって食味が変わることが分かったことは、このプロジェクトの大きな成果だった。
こうした研究成果を世に問うため、翌々年の2019年に満を持して創業、廃校になった美馬市の小学校舎で食用コオロギの量産を開始した。2020年には「無印良品」のせんべいに粉末が採用されて一躍脚光を浴びることになる。同時に農林水産省が事務局となるフードテック官民協議会の昆虫WTに所属し、養殖ガイドラインの作成など精力的な活動をしてきた。
そうした活動の一環として、2023年1月、NTT東日本がグリラスと連携して“食用コオロギ”飼育を開始したとのニュースが流れた。センサーを使ってこれまで手作業で行っていた温度管理や給餌を遠隔地からできるようにする「スマート養殖」を導入し、コオロギ養殖の自動化を進めるとした。当施設を訪問した筆者に担当者は、当施設で得たコオロギ養殖のノウハウを全国の電話局の施設で展開したいとの抱負を語っていた。