SNSでの「炎上」の誘因とは

 このニュースが流れた直後の2月18日に、『日刊ゲンダイ』に「コオロギを食べるのは危険」という記事が掲載され、昆虫食批判の口火が切られた。これを契機に潮目が変わり、「給食にコオロギなどとんでもない」などのコメントがSNSで「炎上」し、グリラスの売り上げは急激に低下、50名いた従業員も削減し、美馬市の生産工場も閉鎖となった。これまで食用に限っていたのを動物用飼料の拡大も図って申請した補助金が通らず、自己破産という事態に陥った。

 グリラスの「商売」よりも「研究」という姿勢が、この事態を招いた誘因と筆者は考える。元々社長の渡邉氏はフタホシコオロギの発生を専門とする研究者だった。「グリラス」という社名がそれを象徴的に物語っている。フタホシコオロギの学名Gryllus bimaculatusから採っているのだ。

 フードロス食材を飼料として育てたコオロギを「サーキュラーフード(循環型食品)」とし、自社ブランドを『Circulated Cultured Cricket』(循環型で養殖されたコオロギ)の3つ(TRIA)のCから採ってC. TRIA(シートリア)と命名するなど、研究者ならではの嗜好性がうかがえる。

 2021年に行われた⾷品技術研修会第267回例会での講演要旨を見ると、研究開発計画として、今年2024年を目途に「完全自動システム開発」「機能性成分の抽出法開発」が挙げられている。これだけの研究には多くの人員が必要であり、この当時従業員数が19名だったものが最大で50名あまりに膨れ上がっている。

 この時点で「食用」に限っていたのも多くの他社との違いである。「商売」で最も大事なのは取引先をいかに拡大していくかではないか。そこへの注力に欠けていた感は否めない。不足する運転資金を大学の信用から得た資金で補っていたことは容易に想像できる。たとえば2020年にシリーズAにて総額2.3億円の資⾦調達を実施、2022年にシリーズA1にて総額2.9億円の資⾦調達を実施などとある。