「美味しくて安全」が普及の決め手

「食べるか、食べないか、好きか、嫌いか」は、その食べ物が「循環型食品」かどうかで決まるわけではない。筆者が関わった研究で昆虫を食べたことのない人の理由で一番多かったのは「理屈抜きで拒否する」「今までの食習慣から食べられない」だった。約9割の人が昆虫食を避けるというアンケート結果もある。

 雑食性動物である人間の心理は「食物新奇性恐怖」と「食物新奇性嗜好」の間で揺れ動く。9割の人は「サーキュラーフード(循環型食品)」だ、「シートリア(Circulated Cultured Cricket=循環型で養殖されたコオロギ)」だといくら言われても触手が伸びない。

 人は良い匂いがして美味しくて体に良いのが食べたいのだ。先に述べたように昆虫料理研究会が2017年に行った食べ比べでは、徳島大のコオロギの方が旨味と香りが強いと答えた人が多かったのである。つまり美味しかったのだ。商売として考えるなら「シートリア」からは匂いも味も伝わらないし、食料不足の実感が乏しい日本人への説得力にも欠ける。「美味しくて安全」が普及の決め手なのだ。無印良品の「コオロギせんべい」がそのことを如実に物語っている。

徳島の高校の給食を再現、その味は?

 順調と思えたグリラス倒産の契機となったのは先に触れた徳島の高校での「給食」だった。徳島の高校の場合は「小中学校のような学校給食ではなく、(食物科があり)、専門科目の集団給食として実施しています。生徒がみな一斉に食べるわけではなく、希望する一部の生徒だけが試食しています」と徳島県教委の学校教育課はJ-CASTニュース編集部の取材に答えている。

 当時のネットを見る限り「給食」という単語が独り歩きし、その味についての評価は皆無だった。そこで筆者は評価の大前提である美味しさを知りたいと思い、担任の先生にお願いしてレシピを送ってもらった。「コオロギパウダー入りカボチャコロッケ」と「コオロギエキス入り大学いも」の二品だった。