既存の学問領域にとらわれない研究を推進するフォーラム「Scienc-ome」に集う研究者が未来を語る連載。今回は、哺乳類の「サイズと老化」の関係に迫る。研究者は、理化学研究所環境資源科学研究センター・上級研究員の伊藤孝氏。イヌの老化に関する研究に取り組むのは、小さい犬種ほど長生きする傾向が顕著であり、サイズと老化の謎に迫れる可能性があると考えられているからだ。はたして、それはヒトにも当てはまるのか。見えてきた老化に関する根源的なルールとは。
(竹林 篤実:理系ライターズ「チーム・パスカル」代表)
イヌもヒトも同じように老化する
多くの人にとってペットは可愛い生き物、だから少しでも長く一緒に暮らしていたい。そんなニーズを受けて、すでに米国ではイヌを対象とするエイジング研究が盛んになっている。イヌの寿命を延ばす新薬開発に取り組むベンチャーまである。では、ヒトの老化とイヌでは、何か違いがあるのだろうか。
理化学研究所環境資源科学研究センター、上級研究員の伊藤孝氏は「イヌの老化に伴って起こる症状は、実はヒトとほとんど同じです。イヌを飼った経験のある人なら、その老化に違和感を抱くことはないと思います」と語る。
子犬は少しずつ大きくなり、成長が止まったときに最も力強い個体となる。そこからは少しずつ衰え始め、活動量も徐々に減っていく。やがて加齢に伴い関節の動きが悪くなり、筋肉も落ちてくる。食欲が落ち体重も減り、夜鳴きをしたりやたら攻撃的になったり、ヒトの認知症に似た症状も出てくる。
「まさにヒトの老化プロセスを、そのままなぞっているような感じです。外観では毛並みが薄くなり、毛の色が落ちてくるなど見た目にも若さが失われます。体内では免疫力が低下して感染症にかかりやすくなったり、ガンを患ったりもする。排泄にも問題を起こして尿を漏らしやすくなったりするケースもあります」
イヌもヒトも同じように老化する。であるならイヌの老化を調べれば、ヒトにも役立つ知見を得られる可能性がある。伊藤氏がイヌの老化に取り組むのは、まさにその視点からだ。