寿命500年とも言われるニシオンデンザメ(写真:NRK/Armin Mück)
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  • 既存の学問領域にとらわれない研究を推進するフォーラム「Scienc-ome」に集う研究者が未来を語る連載。その第1回では慶應義塾大学の早野元詞氏が「まもなく人生250年の時代が来る」と語った。
  • 250年の人生は、決して夢物語などではない。現に地球上には寿命が数百年に達する生き物が存在する。北の深海に潜むニシオンデンザメは1年に1センチしか成長せず、しかも生涯にわたって成長し続けるという。そして見つかった体長5メートルの個体、その年齢は一体何歳になるのか。
  • 東京大学大学院農学生命科学研究科の木下滋晴准教授は、生物の種による寿命の違いに注目し、120年程度とされるヒトの寿命の限界を新たな観点から解明しようとしている。

(竹林 篤実:理系ライターズ「チーム・パスカル」代表)

Scienc-ome」とは
新進気鋭の研究者たちが、オンラインで最新の研究成果を発表し合って交流するフォーラム。「反分野的」をキャッチフレーズに、既存の学問領域にとらわれない、ボーダーレスな研究とイノベーションの推進に力を入れている。フォーラムは基本的に毎週水曜日21時~22時(日本時間)に開催され、アメリカ、ヨーロッパ、中国など世界中から参加ができる。企業や投資家、さらに高校生も参加している。>>フォーラムへ

最長で推定500歳超え!ニシオンデンザメ

 2016年8月12日、『Science』誌に発表された論文が大きな注目を集めた。そのタイトルは「Eye lens radiocarbon reveals centuries of longevity in the Greenland shark(目のレンズの放射性炭素からグリーンランドシャークの数世紀にわたる寿命が明らかに)」、発表者はデンマーク・コペンハーゲン大学の博士研究員ユリウス・ニールセン氏らのグループだ。

ニシオンデンザメ(写真:NRK/Armin Mück)
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「以前から英語名のグリーンランドシャーク、すなわちニシオンデンザメが長寿だろうとは、多くの研究者の間でいわれていました。そこで実際にどれぐらい長生きしているのかを、ニールセン氏らが解明したのです。彼らは眼に含まれるタンパク質の放射性同位体を使った年代測定を行い、体長約5.02メートルの個体の年齢を392歳と割り出しました。ただし測定誤差が、プラスマイナス120歳あるというので、最長では500歳を超えている可能性もあります」

木下 滋晴(きのした・しげはる) 東京大学大学院農学生命科学研究科准教授
1997年東京大学農学部水産学科卒業、2002年東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻、博士(農学)。2003年より科技構戦略(CREST:理化学研究所脳科学総合研究センター)研究員、2005年より東京大学大学院農学生命科学研究科助手、同助教を経て、2012年より現職。魚類の筋形成に関する研究・魚をモデルとした脊椎動物の老化や寿命の多様性に関する研究・アコヤガイの真珠形成機構の研究に携わる。(東京大学の教員紹介ページ
出所:東京大学大学院農学生命科学研究科・木下滋晴准教授
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 そう解説するのは、東京大学大学院農学生命科学研究科の木下滋晴准教授だ。木下氏らも2015年ごろから、魚類の寿命の多様性について研究を始めていた。対象に選んだのは、日本近海にすむメバル属の深海魚である。

「ニシオンデンザメの寿命が400年だと言われれば、やはりその秘密を解き明かしたくなります。そこで当初は日本近海にいる近縁種のオンデンザメを使おうと考えました。ところがこれも遺伝子解析に使える新鮮な試料を入手するのが難しく、その後、ニシオンデンザメの生態調査をしているグループと共同研究できるようになったのです」

◎第1回「人の寿命は250年に!解明進む老化の正体、あと20年で「若返り」も夢ではない