人の寿命は120年が限界なのか
繁殖を基準としてヒトの歴史を振り返ると、寿命について見えてくる真理があると木下氏は語る。
「人類の祖先である哺乳類が誕生したのは、それこそ恐竜が世界を支配していた時代です。誕生したばかりの哺乳類は、体も小さくて大型の爬虫(はちゅう)類や両生類から食べられる存在でした。だから子孫を残すために一刻も早く子どもを産んで、育てるように適応し進化してきた。繁殖のためにエネルギーを使いきれば、その後の生存などどうでもよい。すなわち寿命を縮ませる方向に進化したといえます」
その頃の名残なのか、ヒトは今でも十数年で成熟するようプログラムされている。にもかかわらず平均寿命が80歳を超えるまで延びた理由は、環境に関するさまざまな改善効果のおかげだろう。今ではいわゆるセンテナリアン、100歳を超える人たちが世界で数万人レベルにまで達している。
「ただし、限界も明らかになっています。これまで最も長生きしたとされる女性、ジャンヌ・カルマンは122歳で亡くなっています。今のところカルマン以外に120歳を超えて生き続けたヒトはいません。この事実が何を意味するのか。おそらくヒトでは、120歳ぐらいで生存率ゼロとなるよう、遺伝的プログラムがセットされているのです」
「ただ、なぜ120歳なのかはわかりません。いま取り組んでいるニシオンデンザメのような長寿生物の全ゲノムを解析できて、その結果をヒトと照らし合わせれば、何かが見えてくるのではないかと、そんな期待を込めて研究に取り組んでいます」
ただし、ニシオンデンザメのゲノム解析は、かなり難題のようだ。なぜなら、全ゲノムのサイズがヒトの2倍以上となる6ギガ(ギガは10億)から7ギガぐらいあるから。しかも、これまでに解明された結果からは、機能のよくわからない繰り返し配列が、やたらと多いのが特徴だという。「よくわからない」ということは、なにかとてつもない秘密が隠されているのではないかとも期待したいところだ。