老化は、生き物に必須の現象なのか
ニシオンデンザメは、死ぬまで成長し続ける、すなわち老化しない生き物だ。老化しない生き物は他にもいる。シリーズ第1回で紹介したハダカデバネズミも老化しない。ハダカデバネズミが老化しない理由は、老化細胞を除去する仕組みに加えて、がんになりにくい特徴にも求められる。
がんの発生リスクは、体の大きさも関係する。ハダカデバネズミは小さなサイズだから、がんになりにくいと考えられる。では、大きな生き物は、がんになりやすいのだろうか。
「体のサイズとがんの発生率については、イギリスの疫学者R・ピートが唱えたピートのパラドクスが有名です。原理的には体が大きければ細胞数も多く、がんの発生確率は高まると考えられる。けれども、実際にはそうなっていないとピートが明らかにしました。逆に考えれば、がんの発生リスクを抑えられるから、大きく成長できて長寿になるともいえる」
「実際にゾウは、発がんを抑制する遺伝子を複数持っています。同じ遺伝子をヒトも持っていますが、1セットしかなく、これを失うとがんを発症しやすくなる。まだ解明できていませんが、ニシオンデンザメも、がんを抑制する遺伝子を複数持っている可能性があります」
どうやら視野を広げてみれば、老化は必ずしも避けられない運命ではなさそうだ。不老不死といえば紀元前からの人類の夢だが、地球上には「死なない」生き物も実在する。
「不老ではないけれども不死の生き物として知られているのが、ベニクラゲです。ベニクラゲの場合、ポリプと呼ばれる幼生が歳月を経て成熟すると、再びポリプに戻る。つまり年老いても死ぬことなく、再生してもう一度新しい人生を一からやり直す。これを繰り返すのだから死なない。ひとたび生まれると歳月とともに年老いていき、やがて死ぬというプロセスは、少なくともベニクラゲには当てはまりません」