長寿の秘密は、繁殖にあり

 長寿で知られる生き物としては、ほかにもアイスランド貝がある。貝の場合は貝殻から年齢を推定でき、アイスランド貝は約500歳とされる。ニシオンデンザメだけでなく、これほど長く生き続ける生物が、地球には確かに存在する。なぜそんなにも長い時間、生き続けられるのだろうか。

アイスランド貝の寿命は最長で500年以上に達する(写真:Wikipediaより、©︎Hans Hillewaert/ CC BY-SA 4.0

「現時点ではまだゲノム解析の途中なので、遺伝子関連のメカニズムはわかっていません。ただ、長生きする生き物には共通する特徴があります」

 寿命との相関関係を持つ要素として、木下氏は次の3つを挙げた。「体の大きさ」「成熟するまでの年月」、そして「代謝」だ。

長寿の生き物ほど性的に成熟するまでの年数が長い(写真:SciePro/Shutterstock.com

 まず体の大きな生き物は、長生きする傾向があるという。次の成熟とは繁殖能力の獲得を意味していて、長寿の生き物ほど性的に成熟するまでの年数が長い。ニシオンデンザメの場合なら、体長2メートルに達して、ようやく性的に成熟するといわれている。その成長ペースから推測すれば、成熟するまでに150年ほどかかる。もう一点の代謝についてはニシオンデンザメに限らず、深海それも冷たい海域に暮らす生き物に共通して長寿の傾向がみられるようだ。

「その理由は、冷温の中で暮らしていれば代謝全体が極めてゆっくりしたものとなるからで、これも長寿につながる要因だと考えられます」

 なかでも重要なのが成熟だという。およそすべての生き物は、子孫を残すために生きている。そのためには成熟、つまり成長する必要がある。その際にカギとなるのが「子孫を残すためのエネルギーと、自らの成長エネルギーのトレードオフ」だと木下氏は指摘する。

「繁殖を済ませた個体は、極論すれば用済みであり、いつ死んでもいい。では次世代を残す使命に、それほど集中しなくてよい生き物はどうなるか。そのような生き物は、成長のためにエネルギーをずっと使えるわけです」

「たとえばニシオンデンザメなどは死ぬまで成長し続けます。深海は競争が少なく、巨大なニシオンデンザメを捕食する生き物もいない。だからあわてて繁殖する必要がない。しかも生息数が少ないからパートナーを見つけるのにも時間がかかる。つまり成長エネルギーを保持しておける期間が長いため、長生きできるのでしょう」