白髪や薄毛は治せるか?(写真:AYO Production/Shutterstock)

 既存の学問領域にとらわれない研究を推進するフォーラム「Scienc-ome」に集う研究者が未来を語る連載。今回のテーマは、男女を問わず気になる白髪や薄毛である。

 東京大学医科学研究所教授の西村栄美氏は2002年、髪の毛の色素を生み出す元になる色素幹細胞を発見。その後、髪の毛そのものをつくる元になる毛包幹細胞が色素幹細胞の維持に不可欠で、いずれも、加齢やストレスによって減少し、それぞれ白髪と脱毛の原因になることを解明してきた。

 さらに日本医療研究開発機構(AMED)『老化メカニズムの解明・制御プロジェクト』などを受けて、ストレスを受けた幹細胞の分裂と運命が変わってくることや幹細胞がお互いに競争しあっている事実を明らかにしたほか、高脂肪食などによる肥満が薄毛・脱毛を促進するメカニズムも解明している。

 2017年に研究成果を社会に還元するためにイーダームを設立。同社は皮膚や毛髪の健康から健康長寿を目指すスタートアップへと成長、国立がんセンターNCCVIP支援ベンチャーに採択されている。白髪や薄毛は治せるのか? 最先端の研究を紹介する。

(竹林 篤実:理系ライターズ「チーム・パスカル」代表)

「細くなり→少なくなり→なくなる」髪の毛の運命

 加齢とともに、体のあちこちが衰え始める。これは自然の理であり、今のところ誰も抗うことはできない。だからこそ近年、世界中で老化研究が先を競うように進められているのだ。

 老化に伴う衰えは体の外側と内側の両方にやってくる。なかでも外観でもっとも気になる部分の一つが、髪の毛だろう。年を取ると白くなったり、薄くなったりする。とはいえ、その衰え具合には個人差も大きい。そもそも毛髪にとっての老化とは、どのような現象なのだろうか。東京大学医科学研究所教授の西村栄美氏はこう解説する。

「基本的に毛は、細くなる・少なくなる・なくなる。ただし、その進み具合に関しては個人差のかなり大きな現象でもあります。また細くなるよりも先に白くなる人もいます。毛の太さや色は途中で多少は戻ってきますが、元になる細胞がなくなると戻ってはきません。」

西村 栄美(にしむら・えみ)  東京大学医科学研究所 老化再生生物学分野 教授
1994年、滋賀医科大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院皮膚科、2000年、京都大学大学院医学研究科で博士号(医学)取得。同年よりハーバード大学ダナ・ファーバー癌研究所研究員、2004年、北海道大学特任助教授、2006年、金沢大学がん研究所教授、2009年、東京医科歯科大学難治疾患研究所教授、2021年より現職。2017年、株式会社イーダームを創業。

 薄毛といえば、主に男性に起こる現象だと思われがちだが、女性にも少なくはなくコロナ感染や抗がん剤などによる急な脱毛は大きなペインになるという。

「男性に多いのが、額の生え際や頭頂部など脱毛部分が明らかな“パターン性”の男性型脱毛症です。女性においても類似したパターンも多少見られますが、びまん性、つまり全体的に頭髪が薄くなる傾向が強いです」

「いずれにしても加齢やホルモン、生活習慣、その他様々な要因によって毛が全体に細く薄くなります。性別にかかわらず、高齢者のびまん性の脱毛は老人性脱毛症と呼ばれています。加齢とともにパターン性とびまん性が重なるような形で全体として薄くなっていきます」

 男性の髪の毛について、白髪になる人は薄くなりにくいといわれたりもする。確かにそうした傾向はあるように思えるが、実際はどうなのだろうか。

「白髪が生え始めると、残っている黒髪よりも白髪のほうが太いように思える場合もあるようです。髪の毛をつくる元になる幹細胞と髪の毛の色素を作る元になる幹細胞は、同じ場所にあります」

「人にもよりますが、色素の元になる幹細胞のほうがストレスに弱い傾向にあって、白髪になる。そこで色素幹細胞が減ると、髪の毛をつくる細胞に場所を譲るのかもしれません。けれども、この解釈はあくまでも想像の域を出ません。だから現時点で白髪と薄毛の相関関係については、確かなことはいえないのが正直なところです」