黒髪を守る2つの幹細胞

 西村氏は髪の毛のメカニズムに関する研究に取り組み、その成果を相次いで論文発表している。まず2002年には、髪の毛の色素を生み出す色素幹細胞を初めて発見した。さらに色素幹細胞が色素細胞を毛母に供給し、毛に色をつけることを解明して『nature』に発表している*1

 続いて2005年『Science』に掲載された論文*2は、白髪の発生するメカニズムを解明したものだ。

「髪の毛の黒さのもとはメラニンという色素です。メラニンをつくるのは毛包にある色素細胞、その色素細胞をつくるのが色素幹細胞です。色素細胞が毛の細胞に色素を受け渡すので毛髪が黒くなります。したがって色素幹細胞が老化して枯渇してしまうと、色素細胞がつくられなくなり、メラニンもつくられない。だから髪の毛が白くなるのです。マウスでもヒトでも同じような現象が観察されます」

図:髪の毛が黒くなる/白くなる仕組み
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 2016年『Science』に発表した論文*3では、髪の毛そのものをつくる毛包幹細胞の老化を解明している。

「毛包幹細胞は毛周期ごとに分裂しますが、加齢に伴って自己複製しなくなります。その後、毛を作る細胞を生み出す代わりに、表皮の角化細胞へと変わっていき、皮膚表面からフケやアカとして脱落していくのです。その結果、毛包自体が矮小化して、生えてくる毛が細くなり、やがて失われていくプロセスが明らかになりました」

「これに先立って毛包幹細胞の維持に重要な役割を果たしている、17型コラーゲンが分解されていることもわかりました。またマウスの毛包幹細胞において17型コラーゲンの枯渇を抑制すると、一連の加齢変化を抑制できることも明らかになっています」

図:髪の毛が薄くなる仕組み
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 色素幹細胞と毛包幹細胞、髪の毛の色と髪の毛そのものに関わる細胞はいずれも年齢とともに衰えてしまう。そのために髪の毛は、白くなり、細くなり、少なくなってなくなるのだ。

 では、毛包幹細胞の維持に重要な役割を果たしているという「17型コラーゲン」とは、いったい何だろうか?
 
*1Dominant role of the niche in melanocyte stem-cell fate determination
*2Mechanisms of Hair Graying: Incomplete Melanocyte Stem Cell Maintenance in the Niche
*3Hair follicle aging is driven by transepidermal elimination of stem cells via COL17A1 proteolysis