漢文への学習意欲を見せる中宮・彰子(写真はイメージ、alphabe/Shutterstock.com)

『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にした『光る君へ』。NHK大河ドラマでは、初めて平安中期の貴族社会を舞台に選び、注目されている。第36回「待ち望まれた日」では、一条天皇の中宮・彰子がついに世継ぎを出産。彰子の父・藤原道長は大喜びし、生誕50日目にあたる夜に「五十日の儀」を行うが……。『偉人名言迷言事典』など紫式部を取り上げた著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

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『紫式部日記』にも記されている彰子の学習意欲

 もし「よい物語とは何か?」と問われたならば、その条件の一つとして「人物の成長が丁寧に描かれている」という点を挙げたい。『光る君へ』での藤原彰子(あきこ)の変化を見て、なおさらその思いを強くした。

 父の藤原道長が何を話しかけても「仰せのままに……」とつぶやくばかりだった彰子が、前回の放送では、藤式部(紫式部)のアドバイスを即時に実行。一条天皇に「お上、お慕いしております!」と思いをぶつけて、2人は結ばれることになった。

 藤式部が彰子に寄り添い、その気持ちを深いレベルで理解し、適切な助言を行ったことで、彰子は引っ込み思案な自分の殻を破ることができたのである。笑顔のシーンも増えたように思う。

 今回の放送では、彰子が「藤式部はなにゆえ漢籍に詳しいのだ?」と式部に質問。漢籍とは、漢文で書かれた書物のことをいう。藤式部が幼少期から親しんでいたことを明かすと、彰子は「私には無理であろうか?」と控えめながらも漢文への学習意欲を見せたのが印象的だった。式部は「学ぶことはいつからでも始められます」と彰子を勇気づけて、漢文の指導を喜んで引き受けている。

『紫式部日記』にも、同様のことが記されている。彰子が『白氏文集(はくしもんじゅう)』をしきりに読んでもらいたがることから、式部は「さるさまのこと知ろしめさまほしげにおぼいたりしかば」(そういった方面のことをお知りになりたそうだと思ったので)と彰子の漢文への関心を感じ取ると、秘密の講義を開催することにしたという。

「いとしのびて、人のさぶらはぬもののひまひまに おととしの夏頃より、楽府といふ書二巻をぞ、しどけなながら教へたてきこえさせて侍る。隠し侍り」
(こっそりと、他の人がいない合間合間に、おととしの夏ごろから、『白氏文集』中の「楽府」という漢詩2巻を、拙いながらも御進講させていただいております。私はそれを隠しております)

 ドラマでは、彰子が秘密で学びたい理由について、「亡き皇后様は漢籍もお得意だったのであろう? 私もひそかに学んで帝を驚かせ申し上げたい」と語らせている。

 一条天皇は、史実においても、幼少期から漢文に触れ、側近から「好文の賢皇」と評されるほどの教養の持ち主だった。彰子の努力が一条天皇の胸を打つ……そんなシーンを見るのが楽しみである。