- 介護人材の不足問題をどう解決すべきか。ケアマネージャーなどの経験があり介護問題の第一人者である淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博氏は、ヘルパーの「公務員化」を提言する。
- 民間の介護事業所と棲み分けし、公務員ヘルパーは民間ではなかなか処遇が難しい要介護者の対応などを担うことを想定している。
- 低報酬かつ不安定という介護職のイメージを払拭し人材を確保するには、大胆な制度の変革が必要と訴える。
(*)本稿は『介護格差』(結城康博著、岩波新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
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介護人材の不足問題は深刻な事態を招いている。2023年の出生数が約75万8631人と過去最低となり(「人口動態統計速報(令和5年12月分)」)、もはや少子化には歯止めがかからず労働市場における「人材獲得競争」は激しさを増している。
政府も介護職員の処遇改善策に努めてはいるものの、全産業平均との差が著しく解決の道筋が描けない状態だ。そのため、最も深刻であるヘルパーを市町村の公務員として雇用し、市町村立「訪問介護事業所」を創設すべきである。特に、生産年齢人口が著しく減少している過疎地域から進めていき、徐々に都市部にも拡充していくのである。
ヘルパーを公務員化し、雇用創出を狙え
具体的には国庫補助事業として「国費」による財源措置を講じてはどうであろうか。このような財源措置がなされれば、介護報酬による収入と合わせて安定的なヘルパー事業運営が可能となる。その際の公務員ヘルパーは、契約社員のような公務員という位置づけではなく、定年まで雇用される終身雇用を意味する。
公務員ヘルパーが「ケア」に入ることは、「処遇困難ケース」などの対応には効果的であろう。理不尽な対応をする要介護者や家族への対応は、民間介護事業所ではどうしても限界がある。公務員ヘルパーによる対応で、役所組織がしっかりとバックアップするサービス体系が構築されていれば、これらのケースに対しても毅然とした対応ができる。
そして、民間介護事業所は、さほど問題とはならない「ノーマル・ケース」の対応に徹していけば、ヘルパーの確保・定着も期待できるであろう。これは介護職員が辞めてしまう原因の1つとして、処遇困難ケースなどの対応が挙げられるからである。理不尽な利用者対応は「負担」が重く、新たな担い手確保の妨げとなっている。
公私でこういった棲み分けがなされれば、ヘルパーの「モチベーション」も、それなりに高まり「やりがい」も見出せるはずだ。本来、介護は「楽しく」「充実」した仕事でもある。
このように過疎地から公務員ヘルパーの実績が拡充していけば、一定の都市部にも国庫補助事業を拡大させていく。そして、都市部でも「処遇困難ケース」は公務員ヘルパーが担い、「ノーマル・ケース」は民間介護事業所で対応するといった、公と民の棲み分けが事態打開の鍵になると考える。
公務員ヘルパーという雇用体系を一定程度、普遍化していけば、「介護職は低賃金」といったイメージも払拭されていくであろう。公務員の賃金体系は高く、身分も安定している。特に、高校生を対象にリクルートすることで地方の人口流出の防止にも繫がる。
地方では高校を卒業すると進学や就職で都市部へ流出してしまい、過疎化をますます加速化させている。その意味では、公務員ヘルパー化を「雇用の創出」と位置づけて人口減少社会に向けた対策として考えてみてはどうであろうか。
総務省「労働力調査(基本集計)」(2024年)によれば、2023年産業別就業者人口では「医療・福祉」910万人と第3位となっており、前年に比べ2万人増加している。なお、第1位「製造業」1055万人で前年に比べ11万人増。第2位「卸売業・小売業」1041万人で前年に比べ3万人の減少となっている。
今後、「医療・福祉」分野が第1位となる可能性も考えられる。つまり、全国的に「医療・福祉」分野は「雇用創出」の大きな役割を果たしており、これらの就業者は消費者として内需の牽引にも貢献している。なお、厚労省資料によれば2022年介護職員は約215万人となっている。