医療行為の可能な新資格の創設を!

 いずれにしても介護施設などにおいても介護人材不足は深刻であるため、介護職員の全体的な賃上げは喫緊の課題であり、介護報酬の大幅な引き上げが急がれる。早急に介護職員の賃金を全産業と同水準にしていかなければ、「労働市場」で他産業との勝負にならない。

 具体的には、2027年介護報酬改定においては最低でも10%の引き上げが求められる。そうなれば一定の介護職員の賃上げが可能となり、他産業との差も縮小するはずだ。2024年度介護保険総費用は、予算ベースでは約14兆2000億円と試算されている。つまり、少なくとも介護報酬10%引き上げを達成させるには、約1兆4000億円以上の財源が必要となる。

 ただし、介護報酬が引き上げられると利用者の自己負担額も上がるため、「高額介護サービス費」の基準を引き下げるなどの対応が求められる。

介護格差』(結城康博著、岩波新書)
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 例えば、現行の利用者負担上限額(月額)は、住民税の課税対象となる人がいる世帯の場合、一般的な所得なら月額4万4400円となっている。これを4万円にまで低く下げることで利用者自己負担額の軽減にも繫がり「負担」を回避できる。

 現在、介護職員は研修を受講するなど一定の条件下で「喀痰吸引」と「経管栄養による補給」のみならば医療行為を行うことができる。しかし、医療的ケアを伴う要介護者が増加しているにもかかわらず、介護現場では看護師不足が課題となっている。

 そのため、現行の介護福祉士の養成課程を重厚にして、他にも一定の医療行為が可能となる新たな「療養介護福祉士」といった資格制度を創設してはどうであろうか。

 そもそも、現行の介護福祉士は国家資格といえども「名称独占」といった資格であり、医師や看護師といった「業務独占」の資格ではない。「名称独占」の資格では、その資格を有していなくとも「業務」に就くことは可能だ。つまり、介護福祉士資格がなくとも「介護」の仕事には従事できる。その点が介護職員の社会的評価が上がらない要因ともなっている。素人である家族や無資格者でも、介護を担っているといったイメージで認識されがちだからである。

 しかし、一定の医療行為が可能な「療養介護福祉士」という資格を新たに創設することで、「注射」「点滴」「褥瘡処置」「インスリン注射」にも対応できるようになれば介護職員のイメージも変革されると考える。そうなれば「業務独占」としての資格となり、社会的評価も高くなる。そして、「療養介護福祉士」が担うケアに関しては、高い介護報酬を設定することも可能となり、介護職員の待遇改善への道筋も見えてくる。

 在宅はもちろん施設においても、医師らの指示の下で一定の医療行為が可能となる療養介護福祉士が誕生すれば、介護現場にとっても有益なはずだ。