大井川はダム湖に架かるレインボーブリッジでも有名だ。中間にある大井川鐡道「奥大井湖上駅」を目当てに列車に乗る人も多い(写真:共同通信社)

静岡県の大井川上流域を視察する機会に恵まれた。豊かな自然環境と険しい地形を持つ地域だ。大井川鐡道井川線や畑薙ダムなどの観光スポットで知られる一方、この土地では水力発電や砂防事業が長年にわたり行われてきた。今回は、そんな大井川上流域の歴史や現状について詳しく紹介したい。リニア中央新幹線建設に伴うトンネル工事や土砂問題についても解説する。

(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

一般車通行禁止の先は落石だらけ

 SLで知られる大井川鐡道井川線の終着駅のほとりに井川湖がある。この上流にある畑薙(はたなぎ)第一ダムから先は、電気事業や林業などの事業用車両は入れるが、一般車は通行禁止になっている。

 自動車で登っていくと、なぜそうなのか分かる。

 なにしろ落石だらけなのだ。ガードレールも落石がぶつかってひしゃげている。私はこれまで、こんな道を通ったことがない。

 岩がもろく、雨が多く、また地形が険しいので、どんどん崩れてくるとのこと。地層をみると、ぐにゃぐにゃに褶曲していて、もともと水平だったものが垂直になっているところもある。そして、それがボロボロと剥がれ落ちる。ちょっと手で触るだけでも崩れてくる。

 至るところで土砂崩れが発生しており、ひどいときには道路ごと、土砂が持って行ってしまっている。私が通ったときも、修復のために、あちこちで工事が行われていた(写真1)。

【写真1】土砂崩れで道路が崩壊した現場では修復工事が行われていた。筆者撮影(以下も)

 崩れ落ちてきた石の切り口は鋭利だ。うかつに車で乗り上げるとパンクするので、慎重に石を避けながらのドライブとなる。

 大井川流域はどこもそうだが、川には砂利がこんもりと溜まっている。畑薙第二ダムから上流に向かうとほどなく畑薙第一ダムがある。巨大なダムの堤体を過ぎて、ダム湖に沿って7キロメートルほど上流へ行くと、湖の対岸に行くために建設された畑薙橋がある(写真2)。

【写真2】上流方面から畑薙橋を望む

 この橋は、なぜこんな低い位置に建ててあるのか?