水力発電はかつての主役、大井川にも多数建設

 このようにして砂浜を人工的に維持することを養浜(ようひん)事業といい、日本では全国津々浦々で行われている。かつては大井川が自然の流れで運んでいた砂をトラックで運んで、以前にあった砂浜を回復するわけだ。

 ときどき聞く言説で、ダムは土砂に埋もれてしまうから無駄だ、というものがある。

 だがこれは正しくない。もしもダムがなければどうなるか。

 土砂は川に堆積してゆく。そうすると、川底が高くなって、川は氾濫を繰り返すようになる。これこそが人類が土木工事をする以前の「自然」の姿であり、そもそも我々の住んでいる平野というのは、そうして氾濫を繰り返して形成された沖積平野がほとんどである。

 それが自然だからといって、大昔の状態に戻せばよいというものではない。

 現代的な生活を送りたければ、川は決まった場所を流すようにしなければならない。そのために川には堤防を造らねばならない。川に土砂が堆積するのも何とかしないといけない。

 水害を防ぐという観点からすれば、ダムに土砂が溜まっていく方が、ダムがなくて下流にそのまま土砂を流すよりは、はるかに優れている。

 先人たちが大井川上流の険しい地形に挑戦し開発をしたのは、電力が欲しかったからである。

 いまでこそ水力発電は日本の全発電量の1割ほどしかないが、かつては日本の発電の主役だった。

 大井川では今から100年近く前の昭和3(1928)年に、最上流部に田代ダムが建設された。それ以来、大井川では水力発電所が多数建設され、流域で利用可能な水力エネルギー(=正確には河川水の位置エネルギーで、水量×高度)はほとんど余すところなく電気に変換されるようになった。

 地形が険しいことに対応して、発電所はそれぞれ個性豊かな設計になる。